トピックス

日刊建設工業新聞(2006.11.30)-第39回VE全国大会(2)

第39回VE全国大会 論文発表

「土木事業におけるインハウス設計VEに関する研究」

KOU VALUE PROFESSIONAL OFFICE
代表・CVS 黄 逸鴻 氏


”VEは上流段階で導入すると効果が大きい”

黄氏は、国民総生産(GNP)の9%に相当する日本の公共事業費の6~8割を占める土木事業を対象にしたインハウス設計VEの必要性を訴える。
「土木事業で大きな権限を持つのは発注者。企画から設計、工事、供用にいたるまでコントロールできるのは発注者であるが、コスト縮減を追求しすぎるあまり、機能も低下させている。VEが導入されても、コンサルタントと施工会社が別途にVEを行っており、事業全体を通した価値評価はなされていないのが実情」と指摘する。
土木プロジェクトのプロセスは、企画、予備設計、詳細設計、発注、工事、供用の大きく6段階で構成され、そこにコンサルタント、建設会社が個別にかかわる。「複雑なプロセスで実施される公共事業全体をコントロールするのが発注者の役割。発注者自身がVEの意識を持つことが重要」と述べ、「特に上流段階のインハウス設計からVEを導入した方が、より効果が高い」と力説する。黄氏によると、アメリカの道路事業では70年代からインハウス設計VEが導入され、現在でも見積もり建設コストと比べ、年間10億ドル以上の節減効果が出ているという。
インハウス設計VEを定着させるため、黄氏は「事業内容・プロセスの把握→組織・事業遂行課題の把握→組織権限者への啓もう→基本テクニックの植え付け→実務への試行と継続実施→VE組織デザイン→VEルールの策定→VEの普及実施→VE実施結果の蓄積と活用→VE結果・効果の情宣と表彰」-とステップを踏んで進める方法を提案。これらの施策を、外部のCVS(国際公認バリュー・スペシャリスト)を交えたワークショップ形式で実施する。
少なくとも5年間を要し、1~2年目は中核職員の4分の1がVEに参加する始動期、3~4年目が中核職員の4分の3が参加する展開期、そして5年目以降は中核職員の全員が参加し、VE指導者を育成する成熟期の3期にわけて目標を定めた方が効果的とし、綿密なプログラムに基づいて継続的に実行することが大切と説く。
これまでに黄氏が協力してきた発注機関では、公共工事に計画時VEを導入すると平均して15%程度のコストが削減され、構造物の機能向上だけでなく、ワークショップを通じた発注者の技術向上、適切な意思決定にもつながっているようだ。


「建築工事現場の生産性向上へのVE手法適用ノウハウ」

鹿島建築管理本部建築設備部
次長・VES 足立 忠郎 氏


”共同VE、機能系統図作成などを提案”

この研究論文は、日本VE協会東日本支部生産調達部会の活動の一環。研究会の構成メンバー12人中7人が製造業の出身という特長を生かし、建設業の常識や慣習にとらわれず製造業の目で建築現場の課題を洗い出して、製造業のノウハウを組み込むことに研究の主眼が置かれた。
足立氏は、「建築業は、製造業と比べて生産性が低い。生産性を高めるといっても技能者の経験による改善が主で、科学的な分析や企業の組織的な生産システムの開発が遅れている。特に内装工事や設備工事では、様々な職種の施工会社がふくそうし、工程の遅れ、手待ち時間が発生するなど生産性が低く、施工段階へのVE手法の適用が求められている」と指摘する。
しかし、建設事業にVEを導入しようとすると、△ゼネコン、サブコンなど関係者間の利害関係の存在△組織単位の部分最適化にとどまりがち△建築現場の作業内容分析が不十分△検討に十分な時間がかけられない△VE手法に精通した人材が現場にいない-などの項目が障害となる。論文では、これらの問題点を解決したうえで、建築現場の生産性向上に有効なVE手法を提示した。
足立氏は、この手法の狙いを「建築工事現場における生産性向上」「建築工事の全体最適化」「組織の枠を超えて関係者全員が一体となって参加」「短時間で効率的」「生産性の客観的評価」の5項目に設定。これらの狙いを実現するために、〈1〉設計、ゼネコン、専門工事会社、メーカーなど組織の壁を打ち破った共同VE〈2〉現場観測の実施〈3〉VE目標は工期短縮〈4〉機能反転による機能系統図の効率的な作成〈5〉製造業系コンサルタントの活用〈6〉部品・製造メーカーとの連携〈7〉間接作業のムダに着目〈8〉施工VE検討に対する心構え-の八つの留意点を整理した。
そして、考案したVE手法をユニットバス搬入据付工事で試行した結果、墨だし、床パネル設置、鋼製フレーム組み立て、壁パネル取り付け、天井パネル取り付け、ドア枠取り付け、浴槽据え付け、内部付属品取り付け、ドア取り付けの九つの工程全体で、作業時間を52%短縮できたという。
ただしユニットバスへのVE適用は比較的プレ加工化進み、他工種との取り合いが少ない場合の事例のため、今後は他工種との取り合いが複雑で手待ち時間が多く、生産性の低い工事でVE手法を研究していく方針。


「公共事業における新しい価値の評価方法」

パシフィックコンサルタンツ事業創造本部
VEセンター長・VES 横田 尚哉 氏


”評価基準は機能、コストに加え時間と手間も”

従来、製品やサービスのVEでの価値(V)を表すには、機能(F)をコスト(C)で割ったV=F÷Cの評価式を用いるのが一般的。横田氏は、このFとCに時間(T)と手間(P)を加えた四つの要素で表現する式を導き出した。
「VEの価値は、通常、機能をコストで割った数値で評価する。公共事業の価値も同じ考え方でとらえられるが、単品生産である建設業の特異性から機能とコストだけを基準にしていては不十分で、より確実に価値を評価するためには別の要素も考えなければならない」と横田氏は指摘する。
公共事業の場合、注文してから手に入れるまでにはコスト以外に時間、手間、環境、健康、安心、安全、交流なども消費要素として存在する。横田氏は、特に「時間」と「手間」が公共事業を評価する際の重要な要素に取り上げ、「公共事業は、『どういう機能が得られるか』『コスト、時間、手間がどれだけ消費されるか』が判断基準となる」と持論を説明。
新しい評価式を示すにあたり、△F(機能)=需要者が得る満足度、効用(安全、快適、便利)△C(コスト)=投入される費用(事業費)△T(時間)=かけられる時間(工事期間、待ち時間)△P(手間)=住民の手間(工事中の影響、工事への協力)と定義。あわせて、これら四つの要素について〈得られるもの〉と〈消費されるもの〉とに分類した。
〈得られるもの〉とは、増えることが望まれるもので、公共事業の整備に伴う地域の便益や効用、物流の効率化や交通渋滞緩和に伴う時間など。一方、〈消費されるもの〉とは、減ることが望まれるもので、事業費、期間、手間などを指す。
これらの四つを数値化すると同時に、コスト、時間、手間の三つの要素については、いずれも事業ごとに優先度合いが異なるため、それぞれの優先係数(α、β、γ)を設定。あわせて優先係数設定のための図も作成した。
横田氏が提案する公共事業の価値の評価式は、目標機能のFを分子に、優先係数を考慮したコスト、時間、手間の合計(αC+βT+γP)を分母とする。この評価式を用いると、単に機能をコストで除算していた評価数値と比べ、より実質的な数値となるため、プロジェクトに対する複数の提案のうち、どれが最もふさわしい案かを判断することが可能になるという。
横田氏は、「公共事業では、単にイニシャルコストが安いことが価値が高い事業になると限らず、最適なライフサイクルコスト、期間、手間をで確実に必要な機能を提供することが望まれる」と述べながら、「新しい評価式は、異なる事業提案ごとの価値を判断する際に有効」と訴えた。


「設計VEシステム定着のためのガイドラインの研究」

パシフィックコンサルタンツ事業創造本部
VEセンター主任研究員・VEL 中島 隆志 氏


”ネットワーク評価手法を考案”

同論文は、道路整備の上流段階である道路概略設計に、〈1〉情報収集〈2〉機能定義〈3〉機能整理〈4〉機能別コスト分析〈5〉機能評価〈6〉対象分野選定〈7〉アイデア発想〈8〉概略評価〈9〉具体化〈10〉詳細評価-のVE基本10ステップを試行して問題点・改題を抽出し、改善案を提案している。
研究対象は九州内での道路網構想。道路事業は、整備計画、概略設計、予備設計、詳細設計、工事の順で行われ、整備計画で道路整備の必要性を検証する。概略設計で概略ルートを設定し、予備設計でルート内に発生する橋梁・トンネルといった構造物の位置や形式などを検討し、用地幅を決定。詳細設計で工事実施のための詳細な図面や工事発注のための設計書を作成する。
研究では、VEは上流段階での適用効果が高いことから、地図縮尺5000分の1をベースに最適路線を選定する最上流の道路概略設計Aを対象とした。
実際にVEを適用すると、△発注者が持つVEに対する誤解△設計VEシステム上の課題△評価手法の課題-という三つの問題が明らかになった。
発注者の大きな誤解とは、「VE=コスト縮減」ととらえていること。中島氏は、「通常の設計業務内でコスト縮減対策をとっているからVEは必要ないという意識が根強い」という。システム上の課題は、前例主義・規格による平準的な傾向が強く公共事業の特質から、柔軟なVE手法の導入に発注者側に抵抗があることや職員のVEに対する意識のばらつき、評価手法の課題は、他地域との価値の比較や過剰機能の判断が難しいことなどで、中島氏は、それぞれの課題に対する解決策を提示した。
システム上の課題に対して公共事業のVE定義、従来制度との整合・位置づけ、設計VE手法ツールなどを解説した「設計VEシステム導入ガイドライン」を提案。評価手法の課題については、地域だけの評価ではなく全国的な視点から評価できるネットワーク評価手法を考案した。従来は、走行時間短縮、走行経費減少、交通事故減少の各項目の便益と費用との対比による価値の度合い(事業係数)で評価していたが、ネットワーク評価手法は、都道府県ごとの係数(X県係数)と、地域のマニュフェストや長期計画などをもとにした重要度比による評価手法で算出された路線係数(道路路線係数)を乗じた「ネットワーク係数」と、前述の事業係数を掛け合わせたネットワーク評価値で、事業の価値を判断する。
またVEを適用し、大きな効果があった時の報酬の制度化、VEの瑕疵(かし)責任の明確化、設計VEの適用事例を集めた設計VE情報バンクの設立なども提案した。