VE導入事例

導入事例 『【特別寄稿】震災で感じたVE力のすばらしさ』 >>

3月11日午後、喫茶室で打ち合わせをしていた私は・・・

3月11日午後、喫茶室で打ち合わせをしていた私は、少し大きな揺れも気にせず、悠然と話を続けていた。しかし、揺れは収まるばかりか徐々に大きくなり、その内、テーブルがガタガタと音を立て、コーヒーがカップからこぼれ出す。
店の中にいた数人の客とウエイトレスも身の危険を察知し、外に飛び出していった。我々も後に続き、急ぎ外に出た。
遠くから「ゴウォー!」と言う鈍い音が聞こえる。その音が近づくにつれ、揺れも大きくなってきた。と当時に、足元をすくわれるような大きな揺れが襲いかかる。立っているのもおぼつかない。目の前の桜の木にしがみつく。
見ると、倉庫がグニャグニャと変形しながら揺れている。揺れに合わせて「バシッ!」「ベシッ!」という音とともに建材の粉塵が目の前に飛び散る。電信柱もグラグラ揺れ、トラックもジャンプしている。
色々なきしみ音がする中、女性の泣き叫ぶ声が聞こえる。遠くからはガラスの割れる音、何かが落下し破損する音などが聞こえる。
「静まれー!」「とまれー!」と誰かれなく声を上げている。経験したことのない強く長い揺れであり、日本は終わりかと思った。
揺れがやっと治まり、少し落ち着いてみると、桜の木を抱きしめている自分がそこにいた。手は硬直し、指は真っ赤になっている。心拍数は極限まで上がり、足の震えも止まらない。周りには埃だらけの風が舞っている。

数回の大きな余震の後、揺れが少し治まったことを確認し、急いで会社に戻る。帰り道には民家からくずれ落ちた瓦と倒壊したブロック塀が散乱して危険な状態。
一瞬、車体がぐらつく。「パンク?」と思ったら、実は大きな余震であった。前方の車はゆさゆさ揺れ、電柱は釣竿のごとく振れ回り、横に立つ大きな門扉はぐらぐら頭を振って上から崩れていく。
前方の屋根から突然「ゴー!」と言う音。埃、土砂、瓦が滝の様に落下していく。同時に、ものすごい埃があたり一面に撒き上がる。
普段なら10分で帰れるところを30分も掛かり、何とか本社に戻ることができた。
工場の被害を確認すると、壁が壊れたり基礎が割れたり床にひびが入ったりと建物の被害のみで、幸いなことに機械設備被害や人的被害は皆無であった。
余震は続くであろうし、地震と同時に停った電気は復旧できるはずもない。従業員は自宅や家族が心配であろうことから、4時過ぎには全員緊急帰宅を発令した。
信号が停止し落下破損物が散乱している道を抜け、やっとの思いで自宅にたどり着いたのは夕方5時少し前の事であった。
玄関を開けると、天井まである下駄箱から一部の靴が滑り落ち、壁に飾ってあった絵画や置いてあった陶器の装飾品などと一緒に、倒れたゴルフバックの上に散らばっている。 
怪我防止のためスリッパを履き、何とか廊下に入り込む。玄関、廊下の壁紙はネジレの影響かズタズタに破れ、下地の石膏ボードにもずれ、浮き上がりが発生している。
リビングダイニングに入ると惨状はさらに広がっていた。壁の絵画、スピーカ、サイドボード上の陶器や人形は見事に落下、食器棚からは食器が半分くらい落下、破損。 
重いピアノやサイドボード、食器棚、冷蔵庫も50センチ以上移動、床面には割れた陶器やコップと共に料理本が散乱し、その上に電子レンジ、ロースター、コーヒーメーカー、トースターなどがひっくり返っている。どこかで倒れたのか、醤油の生臭いにおいが漂っている。

まずは、ライフラインを確認する。水はOK、電気はダメと判った。少し、遅れて帰ってきた女房と瓦礫の山を少しずつ片付けはじめる。何しろ、明るいうちに歩く場所、座る場所、眠る場所を作らなければならない。みるみる、部屋は暗くなる。
少しだけ片付いたところで、椅子に座って考えた。「(この惨状で)生活を継続する」と言う機能を達成する手段は何だろうか?たった2人のチームデザインだが重要な手段は「衣・食・住」と「各種情報の確保」と判断した。 
「衣の確保」の下位機能(手段)は「着替えの準備」「防寒着の準備」「緊急持ち出し衣料の準備」などであり、「食の確保」の下位機能(手段)は「備蓄食材の確保」「調理熱源の確保」「調理道具の確保」「箸、什器の確保」などであり、「住の確保」の下位機能(手段)は「明りの確保」「水(飲み水、生活水、トイレ排水)の確保」「(食べる、寝る、休息する)住空間を確保する」などとなる。また、「各種情報の確保」の下位機能(手段)は「TV」「ラジオ」「新聞」「ネット」「回覧」などであるが停電状態での情報確保はラジオしかない。そこで、瓦礫の後片づけを中止し、急遽、これらの機能達成活動に取り掛かる。

図1:「生活を維持する」ための機能系統図

まずは、「明りの確保」として懐中電灯とろうそくを探すが、これらの保管場所である倉庫内も落下物が多く、電灯もつかず、見つからない。室内はますます暗くなる。
必死で「明りのありか」を考える。突然、海外で購入したろうそくが装飾としてベッド脇にあることを思い出した。しかし、たばこを吸わない家であり「火をつけるすべがない」ことに気が付いた。「火をつける」「燃やす」の機能からアイデアを考える。やっとのことで、墓参りで使った「線香用のライター」を思い出す。
ほのかに揺れるろうそくの明かりを頼りに他の機能の充実を図る。懐中電灯、ろうそくは倉庫の落下物の下から、ラジオは2階書斎の旅行カバンの中から見つかる。懐中電灯には単一、ラジオには単三電池が四本ずつ入っていたが、長年使用しなかったため既に放電して使える状況にはなかった。机を探し回るが予備電池が見つからない。
「電池使用の他の製品は何か?」で女房とアイデアを出しあったところ、リモコンに気付いた、しかも山ほどある。単一電池を片っ端から抜き取る。単一、単三電池ともに1.5Vであり代替品にするため、以前、関西大震災でやっていた方法を試みた。 
単三電池に破った新聞紙を巻き、単一電池と太さを同じにし、長さ方向にはアルミ箔を挟み込み代用品とする。その結果、懐中電灯が点き、ラジオからは被災地の情報が流れるようになった。
電池容量が不安な懐中電灯は緊急使用のみに徹することとし、妙に色っぽく揺れるろうそくの光の中、カセットコンロで野菜鍋を作り、冷凍ご飯をぶち込み、夕食とする。寒い夜、温かい食べ物が身に染みる。

数分おきに余震が続く。その度に「ミシ!」「ギシ!」と家の節々が鳴く。すぐに逃げ出せる服を身にまとい、防寒着と懐中電灯をわきに置き、何度も何度も繰り返す大きな揺れに恐れおののきながら、寝られない一夜を過ごす。

朝の光はいつもの様にやってきた。明かりの下で見る惨状は昨夜以上にひどく感じる。突然、関西大震災の瓦礫の山を思い出す。
娘、息子、親せきなどに安否確認の連絡をとったせいか、2台の携帯電話がバッテリー切れで止まってしまった。
「充電する」機能を満足させる一般的な手段は「100V電源から」であるが、停電中であり充電は不可。他手段の「乾電池から」を思い出し、コンビニへと急ぐ。が、思いつくことは皆同じで、既に完売状態であった。
充電するには「電気が必要」である。「電気を作る」を機能に手段を考える、「一般的な回転を電気に変える発電機」「ソーラー発電機」「地熱発電機」「火力」「水力」や「原子力」などが思いつく、「回転力」からエンジン⇒自動車用のジェネレータ⇒シガーライターを思い出した。

図2:充電器

すぐにDIYの店に急ぐと、天井が破損して危険との事で店の中には入れない。カー用品コーナーで「シガーライターからの充電器」を探すように依頼する。女店員は「そんなのある訳ない?」っていう顔をして探しに向かうが、すぐに数本持って現れた。確認して買うと、後ろに並んでいた人たちも「なるほど!」と軒並み買っていた。

図3:「電力を確保する」機能系統図

老婦人が店員に「家に一本も懐中電灯がないの?」と泣きついている。店員は「申し訳ありませんが、あいにくろうそくを含め明りを灯すものは売り切れです」と冷たい答え。「明りを灯す」の機能から達成手段を考えてみた。すぐに「キャンプ用ランタン」と「自転車ライト」が頭に浮かび、店員に探させてみた。運の良いことに「自転車用ライト(乾電池付き)」は在庫が残っていた。店員から「頭良いね」と言われ、老婦人から感謝された。こんなのVEをやっていれば当たり前のこと。
後日、会社の従業員に聞くと、庭のソーラーガーデンライトを数本、家に持ち込んで「明りを灯した」と言う。 
私は不覚にも「明り」から「ガーデン商品」は全く思いつかなかった。「電池不要の明かり」でチーム発想すれば、「ソーラーガーデンライト」「ソーラー防犯ライト」などを探しに、全く別の売り場に店員を走らすことができたと惜しまれる。

図4:後で考えた「明りを確保する」アイデア発想

最も回復が早かったライフラインは電気であり、震災4日目には通電が開始された。しかし、どういう訳か、通電すると同時に断水になってしまい、重要なライフラインがまた一つ止まってしまった。
すぐに、ポリタンクを買いに走ったが、既に完売状態。緊急事態を考えバスタブに一杯の水を張っていたため、すぐに補給は不要であったが、料理用水と飲み水を確保しなければならない。ポリタンクの機能「水(液体)を蓄える」から手段を考える。「ゴミ箱」「やかん」「ペットボトル」「酒ビン」「鍋」「タッパ」「池」「湖」「葉脈」「プラスチックの箱」「ビニール袋」「ゴミ袋」など色々浮かんでくる。この中から「プラスチックの箱」で更に深堀りを始める。「空間を作る」「水漏れを防ぐ」「埃を防止する」と言う下位機能にたどりつき、この機能を満たす商品を発想すると急に「プラスチック衣装ケース」が頭に浮かんできた。他の客は「なんでこんな時に衣装ケースを買うの?」と言う顔をしている。理由を教えると「なるほど!」と言う顔をしていた。
既存の漬物樽と衣装ケース、ビニール袋を張った段ボール箱などのVE水備蓄セットはこれからの難民生活に大活躍してくれた。
後で仲間に聞くと、私の家に備えがない「クーラーボックス」が水搬送に便利であったとの事。クーラーボックスが浮かばなかったのは頭の回転不足と反省するとともに、誰もが、「機能」から「手段」を一生懸命考えているのだと感心した次第である。まさに「困らなければ知恵が出ない」である。
次は「水を確保する」手段を考えなければならない。燃料が少なくなった自動車は避け、自転車で井戸がある家を探して回る。しばらく走り回ると「飲用井戸水」「ご自由にお使いください」の看板を見つけることができた。
ちょうどそこに、ペットボトル2本に給水しているお母さんがおり、水備蓄VEアイデアを教えてあげた。感謝されたことは言うまでもない。
      


図5:「水を確保する」機能系統図と代替案例

運良くとは言えないが、被災日が金曜日であり、土日中に「洋服」、「明り」、「熱源」、「水」、「食料」、「薬」、「情報源」などを確保することができた。
しかし、断水は何日続くか見当もつかない。会社の工場も復旧中であり、自宅の環境整備にそれほど時間を掛けられない。あとは、いかに節約するかである。食べる分量しか作らない、冷凍室のものを冷蔵室に移し、冷蔵庫電気消費量を下げ、溶けた始めた冷凍物から食べていく。キャンプなどで知られる「皿にラップ」を手本に洗い物激減などの知恵比べが続く。

水の復旧には10日間掛かったが、その最中からガソリン、軽油不足になってしまった。遠方からの従業員の車、梱包材量をお客様に運ぶトラック、材料や完成品を運ぶフォークリフトも燃料切れ寸前に。今度は「燃料を保管する」機能でアイデア発想する。「ポリタンク」「燃料タンク」他いろいろ浮かぶが制約条件があり「燃料タンク」以外は使用不可である。そこで、従業員の家にある燃料タンクをかき集め、備蓄とする。しかし、数日たってからは20リッターの販売制限が掛かってしまい、購入時5時間以上の長蛇の列になってしまった。ガソリンは備蓄したものを皆で分け合い、何とかなったが、トラックとフォークリフト用の軽油が全く手に入らない。「燃料タンクのある場所は?」をテーマに社内でブレーンストーミングを行う。「ガソリンスタンド」以外に「農家の耕耘機用備蓄」「大手運送会社の備蓄タンク」などの発想がでてきた。まだ野良仕事が始まらない農家と大手運送会社にドラム缶を載せた軽トラックを走らせたのは言うまでもないことである。

図6:「燃料を保管する」機能と燃料確保のアイデア

突然、都知事が「水道水から基準値以上の放射能が検出された。乳幼児などには飲ませることは危険」と報告があり、「大人では?」「井戸水は?」と心配になりミネラルウオーターを購入に走る。が、推定通り完売状況。水の代用品は?と考えると「お茶」「コーラ」「ジュース」などが頭に浮かぶ。「水を確保する」で考えた機能系統図(図5)の中から「氷(を解かす)」を思い出した。急いで冷凍品売り場に行くとビニール袋に入った氷柱とかち割り氷が残っていた。もちろん購入。
      
図7:(汚染されていない)「水を手に入れる」機能系統図

家に帰り、冷蔵庫の設定を最弱にし、この氷を冷却用に使い、溶けたら飲み水にすることとする。子供の頃の氷冷却式の冷蔵庫を思い出し懐かしい。
その後も食料不足などが続き、知恵出しは1か月半にもおよび、最近になってやっと落ち着いた生活に戻ってきている。
勿論、今でも、この震災で得た「節電」、「節水」、「もったいない」のアイデアを継続推進しているが、さらなるVE発想で新たなアイデアを追加推進し、この夏のエネルギー消費量削減に寄与しようと考えている。

震災後からしばらくの間は正に知恵比べの期間であり、「機能に立ち戻る」「機能から新しい達成手段を考える」「代替案が機能を確実に満足しているか確認する」などVEの基本を活用することにより多くの代替案が生まれ、各種問題を解決することができた。
私にとっては、震災によりVEを再発見すると共に、VEに救われた日々であったような気がした。

目次

  1. 3月11日午後、喫茶室で打ち合わせをしていた私は・・・