人材は基礎教育が命。VEは社員のベースであり、会社の文化だ

株式会社フジタ
安全・品質・環境本部 VE推進部 主席コンサルタント(VE担当) CVS 松田節夫氏


株式会社フジタは1968年にVEを導入。日本で最も早く経営にVEを活かしてきた企業の一つであり、VEを簡単に活用できるよう、“ベストよりベターを”の精神でつくられた簡易版VEである「3時間VE」を開発したことでも知られている。フジタは40年にわたるVEの歴史の中で、VEをどのように活用し、またどのような効果を見出してきたのだろうか。同社のVE活動に関わってきたVE推進部主席コンサルタントの松田節夫氏にお話を伺った。

株式会社フジタは日本でいち早くVEを導入しました。導入当時の様子について教えてください。

当社がVEに取り組み始めたのは、1968年のことでした。「建設業界は他業種に比べて、企業の近代化や体質改善が遅れている。VEによる効率化が必要だ」と、建設業界で最初にVEを経営計画とリンクさせて導入しました。
私は73年に入社し、VEの教育を受け、日常の業務を遂行しつつ、全社的なVE活動の中に入っていったわけです。当時も全店的にプロジェクトVE活動が活発に実施されていました。そして、あるプロジェクトでVE活動により著しいコスト改善ができたのです。これをきっかけにVE活動に、より一層の興味を持つようになりました。VE活動は強いてやらなくても、何も問題は生じません。VE活動を行えばムダなコストが削減され、価値ある建設物が提供できるということが分かったのです。
また当時、VE活動による優れた事例は定期的にVEニュースで水平展開されて
おり、優れた事例を羨ましく思ったことが何度もあり、「いつか自分もVEニュースに出られるようにがんばろう」と思ったものでした。

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40年間の実践の中で感じてきたVEの魅力を聞かせてください。

VEの魅力は、実施してみることにより、得られた成果を体感して分かるものではないかと思います。VE活動はVE5原則がそのポイントを握っていて、その一つのチームデザインが特に大切といえます。組織の壁を越え、専門知識を持った人たちが集まり、良いチームデザインをすれば、素晴しい提案ができるのです。素晴しい提案により大きな成果が得られれば、活動に参加した人たちは組織で認められ、企業も価値を高めることができます。これも大きな魅力の一つといえます。
またVEは管理技術という考え方の一つの手法ですが、他の手法との大きな違
いは、未来に向けた目的思考の設計的アプローチをすることだと思います。他の管理技法、たとえばQCをはじめとする多くの手法は、現状を一つの結果ととらえ、過去にむけた真の原因を調べるための分析的なアプローチをします。この未来に向けた目的思考の設計的アプローチをすることが、VEの素晴らしいところだと思います。
ときに、VEをコスト削減のためだけのツールだと考えている人がいますが、それは間違いです。VEは製品やサービスの価値を高めるツールです。価値を高めて、お客様に喜んでいただき、かつ組織の利益を上げることもできる素晴らしいツールなのです。VEは機能とコストに着目して価値を高めるという発想をしますが、機能には「使用機能」に加えて、美的な働きの「貴重機能」があります。日本の自動車だって、使用機能だけを追求したら、今のように優れた車もデザイン的に美しい車も生まれなかったし、世界中で乗られる自動車にはならなかったはずです。VEは使用機能と貴重機能の双方を追求するものです。だからVEは建設業、製造業、サービス業など、業種・職種を問わず成果を出すことができます。この汎用性もVEの魅力だと思います。

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現在のフジタのVEへの取り組み体制について教えてください。

VEは当社の文化みたいなものになっています。社長がVEを経営の柱の一つとして掲げており、トップダウンで全社一丸となり経営計画実現にむけVEを最大限に活用すべく努めています。VEはチームデザインが大事ですから、VEをやることによって組織横断的な活動が活発になり、部門間、組織間の壁がなくなるというメリットもあります。VEによる成果を出すためには、組織的な仕組みと人材とVE手法の3つがそろって、VEは真の効果を発揮します。
当社には、VEの効果を最大限に発揮させ、人材を効果的に育てていく仕組み
があります。中期経営計画の方針とリンクした全社VE方針をもとに各本部・支店がVE活動計画を立て、実施部署で活動、VE活動成果を評価し、次年度に反映させるバリュー・マネージメント体制とともに、良い事例については発表し、水平展開していきます。これらのVE活動は人事評価制度ともリンクしています。
ですから全部署から新たなVEリーダーが多数誕生していますし、VEの活動事例やVE提案の件数がどんどん増加していきます。当社では全社員が「VEマン」です。当社のVEリーダーは延べ955名にのぼります。入社後すぐにVEの基礎知識をしっかり学ばせ、前線に出るときはVEリーダーへと育っているよう教育し、VEの取り組み体制の強化を図っています。

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VE教育にあたってはどんな人材観をお持ちですか。

VEの基礎教育をしっかり身につけさせることが最も大事だと考えています。しかし実効性を急ぐあまり、基礎教育の大切さをあまり認知しない人がいるのは残念なことです。よく建物の基礎にたとえてお話ししますが、基礎は、その多くが竣工したあとは見ることができません。しかし、その基礎がちゃんとしたものかどうかは、地上の建物を見れば分かります。VEをやっても利益が上がらないから、「VEなんて効果が上がらない」と言う方がいますが、利益に結びつかないのはVEのせいではなく、基礎教育がしっかりしていなかったからともいえるのです。大きな事業の中でVEを活用して大きな利益を上げようと思ったら、それなりの基礎をしっかりつくりこまないといけません。当社がVEリーダーの育成に努めている理由も、積み上げがきくように、社員一人ひとりに基礎を固めてもらうためです。VEリーダーが増えるほど、VE活動の基礎がしっかりして、会社の底力も増していきます。
当社の人材育成方針には3つの判断基準と3つの行動基準がありますが(図表1)、VEは人材育成に非常に役立ちます。企業が利益を確保するうえでいちばん大切なのは人です。人材の質を追求するからこそ企業は伸びるのであって、コストをいくら追求しても会社は伸びません。VEリーダーが増えてくれば、その中からVEスペシャリストを目指す人、アメリカVE協会認定のCVSになりたいという人も出てきます。当社からは、OBを含めるとこれまで19人のCVSが育成されています。

【3つの判断基準】
・顧客の課題に「フジタの総力」で応じる
・品質と収益を徹底して追求する
・「独自性ある価値」を生みだす

【3つの行動基準】
・「スピード感」をもって物事に取り組む
・責任をもって達成するまで「やりきる」
・結果を「検証」して次の行動につなげる

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  • 図表1 フジタの人材育成方針

社員がVEリーダー、VEスペシャリストなどの資格を取得することに、どんな意義や効果を感じていますか。

VEリーダー、VEスペシャリスト、CVSと資格のランクが上がるにしたがい、VEの専門的な理解度が深まり、VEの知識の幅が広がります。そうするとVE以外の管理技術であるIE、QCといった他の管理技術の知識を習得する必要があります。つまり高いランクのVE資格者ほど、VEに精通するだけでなく、IEやQCなどさまざまな管理技術の手法を使いこなせるようになると想定しているのです(図表2)。

 

実際、VEスペシャリストやCVSを見ていると、VEの活用能力が上がるだけでなく、適用場面の必要に応じてほかの手法を使っています。VEを基礎として、幅広い応用力が身についているのです。こんなところにも資格取得する意義があります。しかし、資格を取らせること自体が目的なのではありません。
VEリーダー、VEスペシャリスト、CVSと資格がアップしていくに従い、社員のVEの専門性が深まり知識が増え、かつVE以外の手法も使いこなす応用力が高まり、さらなる人的資源の向上を図れることが資格の効果です。

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  • 図表2

昨今は官公庁や自治体のVEへの関心が高まっていますが、この流れは続くでしょうか。

日本では長い間、受注者側がコスト競争力と製品価値を上げ、他社に競り勝つためにVEを活用してきました。しかし、時代は変わり、今や発注者側が受注者側に、VEを使った改善やコスト削減を求めるようになってきています。そもそもVEは、アメリカのゼネラル・エレクトリック社が経営管理手法として完成させ、その高い効果に注目したアメリカ国防総省が導入を決定し、全米に普及させたという経緯があります。ですから、さかのぼれば、VEは発注者側のツールだったのです。この事実も考え合わせると、官公庁や自治体などの発注者側がVEを活用する流れは、今後さらに加速するものと思われます。

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フジタには、簡便にVE活動ができるツール「2時間VE」を開発した元主査がみえますが、今では業態を越えて他社にもその活用が広がっています。

「2時間VE」は時代のニーズである「VEにかかる時間を短くしたい」「簡便にVEを活用したい」という声に応えて開発された手法です。この手法の特徴の一つは、A3判・2枚のワークシートでVE実施手順全体を表現し、全体の進め方の中の何を現在検討しているのか一目で分かるようにしたことです。またブレークスルーの考え方を取り入れて、願望と現状を目標と問題点におきかえて取り入れました。そして時間のかかる機能系統図は、機能の定義で定義した機能の中の重要な機能4~7つで整理するように工夫しました。そして、VEの基本的な実施手順時のワークシートの数を格段に減らしました。また、この2時間VEの進め方は、VEの基本的な実施手順と互換性をもたせてあるのです。テーマが2時間VEで重たいと感じたら、基本的な実施手順のやり方にいけるように工夫がされています。
仮に私たちは、舟に乗って魚を釣っている漁師だとしましょう。2時間VEという釣り針があり、釣り針はVEにかける時間としましょう。そして利益という名の魚がいたと仮定しましょう。長く時間をかけるVE、つまり大きな釣り針を使えば、マグロなどの大きな魚(大きな利益)を釣る(得る)ことができます。しかしサバやサンマのような小さな魚(利益)をたくさん釣る(得る)というニーズもあります。小さな魚をたくさん釣りたい時に大きい釣り針しかなかったら困りますね。「2時間VE」は誰にでも操れる小さな釣り針で、手軽に小さな利益を出すためのVEのやり方なのです。

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これからVEリーダーを目指す人たちに向けて、メッセージをお願いします。

VEの専門的な知識の幅を広げ、専門的な理解をさらに深めて実践活動をしてください。VEリーダーとなって価値創造活動をすれば、きっとその魅力にはまることでしょう。
そして大切なことは、使用者(顧客)の要求事項から始まり、機能とコスト
の切り口からVE活動をし、VE対象の価値を向上させ、使用者(顧客)の満足を得ることだと思います。それが社会貢献につながり、資源を有効に活用することにつながるのです。VE対象を見ながら、コスト低減のためのアイデアをだす活動をVE活動である、などと間違って思ってはいないでしょうね? VEの基本的な考え方をきちっと理解しましょう。
VE活動は実施することによって学び、価値を向上させるという管理技術の方法の一つです。同時に固有技術としての専門的な知識の習得に努め、技を磨くことも大切なことです。みなさんの頑張りに期待しています。

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