論文発行年度: 2019年 VE研究論文集 Vol.50

「VUCA時代」の「経営VE」を進める上での課題は、激変する経営環境に対して、経営戦略をいかにスピーディにシフトさせるかである。そのために、中長期経営計画の策定や戦略管理、組織の変革、事業再構築の実施、経営システムの構築などをスピーディに実行する必要がある。これらの施策をスピーディに実行させるためには、企業価値の現状を正しく、スピーディに把握することが最も重要である。本研究では、スピーディな企業価値の現状把握をする手法として、企業の合併や買収などの際に対象となる企業の価値やリスクを詳しく把握するために実施される「デューデリジェンス(DD:Due Diligence)」とVEを融合させた企業価値評価技法を開発した。これにより企業の現状価値を正しく、スピーディに把握し、経営戦略をスピーディに策定できるようになるものと考える。

製品の価値向上の形態の一つに「機能の向上」、すなわち「より優れた機能を持った製品を使用者に提供する」方法がある。そのためには的確に「使用者の必要とする機能」を理解し、その要求を上回る機能を提供しなければ、高い顧客満足を得てその価値を認められることはない。
本論文では、VE対象の情報収集のステップでの「体験法」「生活研究(観察法)」、機能の定義のステップで「シナリオライト法」を適用した事例をもとに、「使用者の必要とする機能」を正しく理解するための情報収集の重要性について考察する。

首都高小松川ジャンクションは、新たな2方向の連結路と、既設入口に加え新しい入口が作られ、既設出口の付替えも行われる。供用後は新たな本線分岐と、利用形態が従来から変わる出入口となることから、お客様に混乱なく、安全に利用して頂く点に着目し、アイデア発想を実施した。具体化する過程で、アンケートによる客観的評価を取り入れ、お客様にわかりやすく、安全と考えられる供用開始ステップを提案した。その他、工程短縮、広報手法の検討も実施した。

特定の製品やサービスの価値を向上させようというときには、VE 実践活動を効率的に適用して目標を達成するマネジメントが必要になる。
本論文では、特定対象へのVE実践におけるマネジメントの問題点を問題点系統図にまとめ、その中から重要な問題点を5つに絞った。その問題点の解決策を『新・VEの基本』『 VEハンドブック』や過去のVE研究資料等の文献からポイントをまとめ、その効果的な解決策を「VE実践活動におけるマネジメント成功の5つの要因」として提案し、事例による有効性の検証結果を報告するものである。

VE適用が製品やサービスの価値向上に成果をもたらすことは、VE全国大会等で紹介される様々な事例が示すとおりまぎれもない事実である。より大きなVE成果を得るためには代替案のもととなる優れたアイデアが不可欠であり、アイデア発想力を強化することはVE成果の拡大に直結する。
本論文では、VE適用によって得られる成果をこれまで以上に拡大するために、アイデアを闇雲に数多く発想するのではなく、価値向上に寄与する可能性のあるアイデアをはじめから多く出す方法を提案し、その効果を実際の活動で確認した。製造企業において、VE実践、VE研修、特許ミーティングというそれぞれ異なる目的のために開催される活動を融合することで、VE成果の拡大につながるアイデアの創出を促進できた。

従来の2日間のVE基礎研修は座学と演習から成る。受講者がVEを学ぶことで、担当業務に活用する意欲が湧く。 さらに、VEリーダーの資格を取得することにより、知識とモチベーションが向上し、活用への使命感も生まれる。 しかし、2日間の講座を受講しVEリーダーの資格を取得しても、自分でVEを活用できないという声が多い ことが 課題であった。
そこで、受講者がVEを活用するための研修に望む施策を検討し、2日間の講座とVEリーダーの資格取得に加え、受講者が計画を立ててVEを実践活用することまで組み込んだ、VE基礎研修のしくみを構築した。その結果、本研修を受講した者はVEを活用するコツをつかむことができた。また、本研修におけるVEの実践活用から、収益面に対するVE成果を出した事例も散見された。

「人事評価制度」は、多くの企業が抱えている人事課題の1つであると考える。
しかし、そのことに対して明確な改善案を持っているかというと、そうではない。よくある傾向として、「評価」のうまく行かない原因を「評価制度」や「運用上使用している道具」に置いてしまう。そして、その対策として「評価制度」 や「運用上使用している道具」を変更することで満足してしまいがちである。
本論文は、「人事評価制度」の改善をVEにより実行する際、どのような切り口で改善の入り口を見つけ、分析していくことが有効的かを述べる。そして当社の「人事評価制度」を実際の題材とし、VEによる分析が、「人事評価制度」にも適用できることを、実際の代替案の提示も含めて述べる。

当社は半世紀にわたり経営と連携したVE 活動を継続しており、建設業の特殊性に対応しつつ全社的VE 活動を行っている。そして、子会社化に伴う新たな経営目標を達成するため、従来から行ってきたVE 活動の大幅な改善を行なった。そこで、本稿ではこの6 年間の取り組みを紹介し、建設会社の全社的VE 活動を活性化するために実施した様々な活動やそのために開発・適用した手法であるQVE とVE サークル活動を紹介する。

これまでの社会を築いてきた資本主義は、今後徐々に衰退すると予測されている。そして、次の時代の経済パラダイムとして「共有型経済(シェアリングエコノミー)」が主役になるといわれている。生産活動は大幅に減少し、物・サービス・場所などを多くの人と共有・交換して利用する社会が訪れる。
消費行動はモノからコトへとシフトし、全ての企業がサービス業になるといわれる時代には、新たなサービス創出に取り組むことが重要となる。本稿ではサービスの創出をテーマとして新たなVE検討手順を提案するものである。まず、検討の入り口として困り事を抽出し、それを深掘りすることによって、サービス創出の切掛けを発見する。従来の検討手順のようにモノだけに着目するのではなく、ヒトとモノとの関係に加えて、さらに社会環境の変化にも着目する。時間、空間、社会的環境などが常に変化し続けていることである。
ヒトとモノはその影響を受けるために、モノの機能が全く働かなくなることが考えられる。その対応策として、モノの更新に多大な資源とエネルギーを投入するのか、新たなシステムの構築で対応するか、その選択が迫られる。本稿では、後者の方法について提案するものである。