論文発行年度: 2002年 VE研究論文集 Vol.33

本年1月に実施された日本VE協会主催の第12回VEリーダー資格試験は4,057名の合格者を発表したが、今年も合格者数の75%を建設業とその関連業が占め、企業別合格者数も上位20社のうち建設業が15社、総合重機械メーカーや建設コンサルタントの関連業を含めると実に19社となり、建設と関連業がほぼ独占する形となっている。

この事は諸官庁のVE提案制度の導入と、企業評価にVE能力を加えたことや、昨今の民間分野での受注においても、VE手法の活用が欠かせなくなってきたことが、建設の関連業界にVEL取得の異常な高まりを持たれている要素になったことと思う。

他方、建設業界での受注競争は、相変わらずの明日無きコストダウン競争の状況にあり、この業界での生き残りをかけた戦いは、今後益々熾烈なものとなることが予想される。

本論文は、VEの基本理念を建設会社に導入し、VELを積極的に活用の上、実り無きコストダウン競争からの脱却を図り、合理性のあるコストダウンシステムを作り上げ、過酷な現況に対応できる企業体質を目指した、VE実践システムの構築について述べる。

当社ではVEリーダー認定試験合格者などを対象に、建設VEの理解を深めるために、Off-JT教育として社内で建設セミナーを筆者が講師として開催している。このセミナーにおいて建設VEについての、いろいろな問題が提起される。例えば、機能系統図からの機能本位のアイデア発想がVE改善とは言いがたい場面が見受けられる。このことから、受講者にVEで最も重要とされている、機能分析について理解されないことがある。これらが障害となり「教育の執りかかり」で受講者がVEに対する関心をなくしてしまう恐れがあることもある。このため、本論文では機能系統図を建設VEセミナーで、どう生かすかの検証を行った。その結果、VEテーマの問題点を検討、整理することによって、施工者側と顧客側からの観点を変えた、二種類の機能系統図を作成することにより、効果的なVE改善の提案をすることが可能となった。これにより、受講者にとって機能系統図作成の意義を理解することができ、分りやすい建設セミナーになると思われる。

本研究は現在国内公共事業の計画、設計を担当している建設コンサルタントが直面している課題を摘出し、今の状況下に活路を見出し、価値向上を図るため、VEを業務上に活用する方法について提案することが主目的である。今回は主に建設コンサルタント業に自主的にVEを行う場合の実行策を提案し、今までVEを実施していない地域計画分野と道路計画分野を例にVEの活用策について詳述する。

VE活動を通して検討・提案される代替案は、総じて設計内容が抽象的で、ダイレクトに試作・実験等による技術評価を行うことは難しい。そこで、従来からこのような場面では、手軽に活用できる主観的評価法(レーティングなど)を用いることが多いのだが、評価のよりどころとなるモデルがあいまいな(あるいは存在しない)ため、評価結果にチーム内での合意がともなわず、混迷する場合も少なくない。

そこで本論文では、主観評価ではあっても、評価のよりどころとして効用関数を活用する合理的な設計評価法を提案するものである。具体的には、「ウェーバー・フェヒナーの法則」に基づいた「対数効用関数(関数の決定にはAHP手法を利用)」を活用した代替案評価法を開発している。

なお、提案評価法は、広くプロジェクト型製品設計活動での活用を前提としているので、実際にA社の3Dモデリングマシンのスプンドルユニット開発プロジェクトで適用し、メンバ一間の合意形成による評価法としてその有効性を検証している。

顧客価値とは、消費者である我々自身が、商品やサービスを手にし、使用する時感じる満足感であり、身近なものである。しかしながら、一つひとつの商品やサービスにおいて、送り手側から、顧客の価値感の全体像を描き出そうとすることは、常に困難を伴うものである。

なぜならば、顧客価値とは顧客が感じるものであり、顧客の立場に立って見た使用場面への理解というものが欠かせない。また同時に、顧客のその満足感を顧客が感じ取れるように、どう実現するのか、送り手の創造性も同時に求められているからである。

本論では、商品の企画段階では必ず志向されるであろう顧客の価値感の全体像を、VEにおける機能分析手法の中に、一定の枠組みを設けて描きだせるようにした。顧客価値に迫りやすくすることで、機能分析の活用に、より多くの送り手の参加を願うものである。

本論文は、自動車部品を対象とし、納入先との共同開発を行い厳しい目標製造コストを達成していく開発設計段階のVE(以降では開発VEと呼ぶ)の効果的な進め方を提案し、その有効性を明らかにするものである。すなわち、従来の自動車部品メーカーで多用されている開発VEの進め方の問題点を明確にし、この問題点を解決する方法を考案して、これを開発VEのジョブプランのステップの中に取り入れVE活動を効率化したものである。具体的には重要な基本機能を果たすためのおおまかな方式・構造案を決定した上で、それ以降の機能の定義・整理・評価やアイデア発想をしていくという新しいステップを取り入れた開発VEを進めるものであり、その結果、従来の開発VEより短時間で効果的な成果が得られることを示したものである。

本論文は、日本の製造業の諸課題に関する調査結果の考察を通して、企画VE活動へTRIZ手法を導入する可能性について論じるものである。

今回の調査結果によって、日本の製造業の多くが、自社事業を既に成熟期から衰退期に入っていると認識していることが判明しており、商品企画が今後の大きな課題になっている。そこで本論文の後半部では、調査結果の考察結果を踏まえて、商品企画を充実させる手段として、商品(技術)の発展イメージ(未来のあるべき姿)の形成を支援するTRIZ手法として"技術システム進化のパターン"を企画VEの活動プロセスに導入することを提案するものである。

より具体的に言えば、企画VE活動の中で、TRIZの1つの手法である"技術システム進化のパターン"を活用して新商品に関する将来シナリオを作成し、次段階の開発VEの進むべき方向性を確立する方法について言及するものである。

建設技術業務の総合化、複雑化などの進展に伴い、業務全般を見渡した俯瞰的な把握・分析に基づき、技術の改善や、より合理的なプロセスによる安全性の確保・外部環境負荷の低減などを実施する管理技術が必要となってきている。

これらの管理技術は、それぞれの要求事項を個別に管理していくことのみで実現することは困難で、あり、複数の要求事項を総合的な判断により管理していく技術が必要である。

総合的な判断の根底となる管理技術に、VE技法をツールとして活用することにより、より合理性と有効性が図られ、総合技術監理としての価値向上が図られるものと思われる。

以下に建設プロジェクトにおける総合技術監理の必要性とVEの果たす役割について記述する。