論文発行年度: 1974年 VE研究論文集 Vol.5

昨年わが国に石油パニックを起し,大きなショックを与えたいろいろな問題はまだ記憶に生々しいが,石油に端を発した諸問題は石油のみにとどまらず,我々に資源,エネルギー不足を再認識させる一方,「狂乱物価」と言う流行語までつくり出させてしまった。かって例をみなかった大幅なコストアップ攻勢に対し今後各企業が,この「狂乱物価」をどう吸収対策し,いかにして各商品の付加価値を高めるか,又新しい社会の経済変化に,いかにして速やかに同化するか否かによって,今後各企業に格差が生じてくることは明らかであろう。これ等の諸問題に対処すべく筆者の所属する事業部で行なっている種々対策の中で,現在着実に成果をあげつつあるVE活動について以下述べてみたいと思う。なお,本論文中の各種実施例は全て筆者の所属する音響機器事業部の実例である。

昨年末よりはじまった石油パニック,それに続くインフレ,大幅な人件費上昇と,企業は省資源,省力,省エネルギーといったコストダウンに追われているといっても過言ではない。また社会から,この事を,これ程まで強く要請された事も今だかって無かったといえる。社会の体質が変る時に,企業の体質が,それについて改善されないとしたら,その企業は生き残る事は困難といえよう。

一方,かねてからVEにおいては機能の追求を行ない余剰機能の削減,コストの低減,価値の向上という面を各界の人より論じられ実施されて来た。これは,現在の社会が要請している事そのものズバリといえる事である。今こそ企業が,ほんとうにVEを必要とする時であり,企業の経営にVEを採り入れる時期である。そして,企業の中に,VEというものを採り入れる時,それを,どの様な形で運用するのかを,検討するべきであるといえる。

現在,日本経済をとりまく周国の情勢は,激しい変化の様相を,更に,こくしてきております。昨年に始まった,石油パニックと,西欧,米国に進行してきたインフレーションが,更に世界的なインフレーションとして押しよせ,日本が国際社会の中で貿易立国として存在することが,国内コストプッシュ要因の増大に伴なって,大幅に圧縮されつつあり,このままゆけば3~4年間で日本は,完全に国際競争力を喪失する危機に直面してきた,とさえいわれております。

国内では,消費者物価,卸売物価は,まだまだ不安定,公共料金は値上げの一方,総需要抑制策の進行は,正に最悪のスタグフレーションへと深刻化しております。

一般企業においては,生産販売の鈍化,材料等を中心とするコストアップ,人件費の大幅な上昇など………「やがて回復するであろう」という安易な企業経済見通しは,今や,全く否定的であり,最近,特に企業経営の中にVEが大きくクローズアップされてきました。

「この危機を乗り切るためには,VEしかない」とさえいわれております。

市場競争がますます緊迫すると共に,材料費・人件費等の高騰が続く現在,価値ある技術商品を開発するために,設計部門においては,今までにない創造的な設計が要求されている。それは,非常に優れた技術的なものから,使用材料を少なくしたり,生産性・サービス性の向上を狙った,ちょっとした工夫等諸々である。

そのため,設計部門においては,日々,ユニークな,優れたアイデアの必要性が叫ばれ,グループによるアイデア会議や個人的なアイデア発想が行なわれている。

しかし,そういった形で出されたアイデアの多くは,目的とする所を充分に達成しているであろうか。また,創造的な設計をするためのアイデア発想技法は,ブレーンストーミング法・NM法・KJ法等を中心に約40前後あると言われているが,日常の設計活動の中において充分に理解され,効果的に活用されているであろうか。

どちらにしても,現在の厳しい社会情勢の下で要求されることは,実際に役立つ,効果的なアイデアを,いかに確実に,早く,多く出すかということである。

そのためには,過去の技術蓄積の全てをもっている設計者の経験・知識・知恵を,いかに有効に引出すかが,重要なことである。

そこで,この論文においてはいかにして,設計者の経験・知識・知恵といったものを有効に引出すか。そして,それを真に価値ある技術商品の開発に結びつけるかを,アイデア構造図を中心とした,創造的設計の考え方と,その進め方について,過去,研究してきたことを紹介する。なお,この論文中の実例は,当社で製造・販売している,オープンリールテープデッキに応用,活用した事例である。

われわれは,現場すなわち第1線作業所でVEを実践することを目標としてきた。

建設業の作業所は地域的に分散していてしかも移動性があり,そこで行われる業務上の判断は迅速性が要求されるので,進行管理あるいは日常決定の大部分は組織効率上母店でなされることは少なく,作業所自身にゆだねられている。人的配置も社員の80%は現場配属であり,企業の特徴は人中心主義であり,現場中心思考である。したがってVE活動においてはとくに第1線作業所で,きめのこまかい展開をする必要がある。

この観点から,どこででも,短時間ででき,しかも,BESTよりBETTERをねらうという主旨のもとに開発された「3時間VE」については既に発表したところである。あわせて,現在全社員のおよそ80%がVE基礎教育(FVEスライドと実習を中心とした2日間のFVE実践コース)を受けて,VEの考え方を理解しているので,現場で行なうVE活動は概ねスムーズにいっている。

今回は,過去2年間にわたって実際に現場で実施した3時間VEをフォローし,実践面でのテクニックとその問題点について細部にわたって検討を加えた。その結果とくに前回の論文では触れていなかったVE対象の選定方法,3時間VE会議の諸問題,VE会議後施工を完了するまでの手順を中心に,われわれが実際に推進してきた方法を体系化し報告するものである。

生産企業のあらゆる,経営活動に共通な経営哲学であるコストダウン(C.D)については,従来にまして真剣に考え,究極コストを日常活動の中に定着させるべきものであるが,近年,労働に対する価値観がうすれてきている状況では,「何が」「どのようになればよい」といった順序を正しく捉えないと,単にC.Dするといった,漠然とした活動になり,価値を評価(この商品を作るには,これだけのコストが発生する)すべきことを忘れるのではなかろうか。