論文発行年度: 1986年 VE研究論文集 Vol.17

製品ライフサイクルが短くなるにつれて,VEの適用時期は次第に上流にさかのぼり,開発設計段階から商品企画段階に至ろうとしている。

複数のモジュール商品を組み合わせて構成する,システム製品と呼ばれる商品では,個別のモジュール商品の機能にとらわれない自由な発想で,長期的な展望に基づく新システムを構想企画することができる。

ところがこの場合でも,実際の商品企画では,どんな新機能を,いつ,いくらで,どんなモジュール商品として発売するかという,個別の計画が最も重要な課題であり,どうすれば顧客が喜ぶかに日夜頭を悩ませているのが現状である。

今回の研究は「価値指数」の技法をベースにして,これを発展させたもので,商品企画段階での新機能の評価に関する技法を提供することを目的としたものである。

低成長時代の到来,円高ドル安等,日本経済を取り巻く環境は,大変きびしい状況にある。このような情勢下で各企業は,新製品の研究・開発に力を入れ在来製品の枠の拡大と新市場への進出の機会をうかがっている。

創造的アプローチのVE技法は,時代の要請に応えるべく新製品開発,新市場開拓などの分野で大いに活用され成果を上げて来ている。

しかしながら創造活動が中心の研究・開発段階でのVE適用は,まだまだ浸透しているとは,言いがたい。本論文では,開発VEが企業内で浸透しにくい理由を分析した結果,研究・開発技術者の意識変革が必要であるとの観点から,開発VEの新定義を提唱する。さらに,研究開発段階の創造活動の効率化をはかるのに有効な機能分析法(目的展開図法,アイデア展開図法)も開発したので合わせて紹介する。

現在の建設業界は,昭和40年代後半から50年代初期にかけての高度成長期にそのピークを極め,ゆるやかな安定成長といわれる中で,生き残りを賭けた熾烈な企業間の競合を展開している。

今日の競合の特徴は過去の成長期のごとくの受注量の拡大とは異なり,効率化と多角化にある。

拡大することのないパイのもと,各企業とも,効率化へ向けての各種の管理技法に一層の磨をかける一方で,多角化へ向けて,業際の拡大,今後の社会やニーズの変化への対応といった観点からの企業体質の変革を押し進めている。

当社においても,建設業の旧来からの体質である請負型の企業体質を脱皮すべく,同業他社に先がけ,「脱請負」をスローガンに複合システム産業化を目指して,体質の革新を続けている。

さらに,具体的な戦略として「造注体制」の確立を打ち出して事業活動を展開している。

我々の言う「造注」とは,顧客のニーズの先取り,または喚起,掘起しを行うことから,顧客に対する事業提案を行い,新たな需要の創造を目指すものである。

この様な一連の事業活動において,VEはそれらを支える大きな柱となっている。

現在は業務全般に適用され,企業内の効率化はもとより,激しいコスト競争の内での事業提案や構築物の内容の充実と差別化戦略の徹底等において有力な武器となり,企業間の競合を切り抜けている。

我々設計部門は,造注戦略の内では上流に位置し,顧客のニーズの十分な把握から,事業提案を創出し,事業化推進を押し進めるためのカジ取りを担っている。

こういった意味からも,設計部門におけるVE活動はその重要性を一層増すこととなった。

我々は,その重要性を認識し,より上流でのVE適用を計り,より一層の顧客への価値向上を果すべく,従来のVE手法を見直し,検討を加えた。

そして,ここに紹介する設計VE手法へと結実し,展開するに至った。

VEの特徴の一つに「顧客本位の考え方」がある。建設設計を行う上でも,顧客抜きには考えられない。

日経アーキテクチャーが,法人に「今後,建築家,設計者にどのような面でその能力の発揮を期待するか」を質問したアンケート資料がある。その結果の上位3つを列記してみると

①コストに対する認識の高揚

②施主の意図を的確に把握する能力

③発注者が全面的に信頼して任せられる体制の整備の順となり,今回の論文を考えて行く上でのメインテーマとした。

この論文では,これをかみ砕いて,次のような方法を考えた。

①営業・建築設計担当者が,顧客ニーズの確認のための「顧客ニーズ確認書」を作った。

②その顧客ニーズ調査より,ニーズを機能定義するための「顧客ニーズ機能定義変換シート」を作った。

③建物の基本機能に,ニーズよりの機能を加え機能系統図を作る。

④対象機能分野を選び,その機能別コストを算出する「VE顧客ニーズ機能評価表」を作った。

以上のワークシート等を作り,既設のVEステップを加えた。

この方法を使って設計を行うと顧客にも喜ばれかつ社内シーズにも応えることが出来たので提言する。

普及率の向上に伴い,成熟商品の仲間入りをしたエアコン業界の動向を現象面より眺めると,

①単発的な機能付加競争・価格競争が激化してくる。

②製品の開発期間短縮と,開発技術力の平準化により企業の収益性が低下傾向にある。

等が生じる。

このような環境の中でのVE活動は,市場価格対応優先で,売価DOWNのための活動に終わりがちである。

従って,顧客ニーズに立脚した価値改善活動による,利益計画にリンクした活動が必要であり,次期新製品開発段階における源流管理を重視した,許容原価に基づく取り組みが今後重要である。

しかしながら,企画段階におけるVEの必要性は従来より叫ばれているものの,DTCを代表とする目標設定技法は,VEへの適合性,および実用性の面より,実践的なアプローチ内容の必要性を感じる。

そこで,企画段階において,客観性のある機能評価,およびアイデア発想の指針が得られ,設計部門で次期新製品の開発目標コスト造りに,有効的なVEアプローチの一つの方法論について述べる。

VEが対象とする価値は使用価値,貴重価値及びコスト価値である。われわれが,あるいは建築主が金を支払うのはその物の持っている「ハタラキ=機能」に対してである。このユーザー(顧客)が要求する働き(機能)を最低の投資で作り出し,ユーザーの満足を高めることがVE活動の目的である。VE活動の対象となる物は大きく2つに分類できる。その1つは,初期に投資する金額を重点的に考えれば良いもの,もう1つは,初期投資以上に使用期間中,すなわち機能を発揮している期間を通して必要な費用を考えなければいけないものがある。VE活動はややもすると初期投資金額の低減,コストダウンに目がむきがちであったが,初期投資だけではなくライフサイクルコスト(LCC)でのコストダウンを目標とすべきである。今回建築設備の中の給水揚水システムを一例として,システムの機能を「システム信頼度を80%以上に保持する」ことを条件に,ポンプ等を複数台設けた場合(冗長設計した場合)と1台との場合でLCCがどのように変わるか試算を行った。冗長設計されたものは当然初期投資コストは上昇するが,LCCで考えると必ずしも不利にはなっていない。建築設備のように機能をいかに発揮するかが重点のものは,特にLCCでコストを評価しなければならない。また,LCCで評価する場合にも,途中での交換時期をどのように決めるかが重要であるが,この機器の交換時期を各機器の信頼性データをもとにしたシステム信頼度を一定以上(80%以上)に保つことを条件に決定した。

なお,ここでいう信頼性のデータは,機器の交換(理由のいかんを問わず)を故障と見なして算出してあり,信頼度とは交換されていないものの割合を表している。

建設業には品質管理の導入が遅れていたが,近年急速に品質管理への関心が高まり,各種の品質管理手法が導入され徐々に成果を上げている。しかし,手法の適用範囲,適用方法に混乱があるように見受けられる。その原因として機能定義・評価に不十分な点があるように見受けられる。

VE技法は機能本位の考え方で価値向上を目差すものであるから,顧客が求める価値を製品の品質に置き換えることにより品質向上,品質保証が可能であることに着目した。品質機能展開,FMEAなど品質保証の技法によりVEテーマを決定して,VE活動を実施する手順と数年間の研究実績とダム工事における実施例を述べる。

本論文はVA活動に対してコンピュータを導入し,VA活動そのものの効率化を図ることを目的とする技法について述べたものである。

社会構造の高度化に伴ない,大規模・複雑なシステムが要求される時代である。当工場は受注生産方式にて,製造している,製品が多いが,顧客要求に対し,要求機能の最大限達成と提供価格の低減を行うとともに,当工場内に発生するコストの低減に対し,VA活動を行い,適正な利益確保を行っている。顧客を満足させ,企業利益を確保する期待に応えるためにVA活動の拡大と有効な活用が望まれている。高度情報社会を迎え,コンピュータの活用が各分野において適用されているが,VA活動分野への適用も例外ではない。このような環境の中でVA活動に必要な客観的分析,コスト分析,アイデアの多面的組み合わせ,ビジュアル化,整理およびデータベース化など人手作業では大変な作業となる部分をコンピュータの持っている特徴を備えたツールの適用によりVA活動を支援するシステムの完成がバリュー・エンジニアの間で望まれるようになってきた。本論文はこのような背景からシステム計画技法TUPPS(Tool,User and Project-Planner System,以下TUPPSという)とコスト情報システムをVA活動に融合させ,人手作業をコンピュータ処理に置き換え,VA活動の効率化をはかる,システムの構築例を示し,その内容の要点を紹介するものである。

ここでは機能整理から機能系統図,アイデア整理からアイデア体系図等,VA活動で最も重要視されるジョブプランに,システム計画技法TUPPSを中心に構築したVA機械化システムによるVAの展開,およびVAコスト情報の収集に対する原価構成ツリーへのコンピュータ応用について述べ,VA活動作業の効率化へ,いかに貢献できるかを示すものである。

従来より数多くの機能系統図の作成方法や機能評価法が発表されているが,それらはいずれも独立した方法として展開されており,有機的につながったものではなかった。本論文ではこれらが一連のプロセスの中で,同時に,しかも簡便に行われるシステムを提案するものである。本システムは機能項目間の関係を「目的-手段」,「原因-結果」あるいは「機能重要度」等の観点から,従来のような画一的な2項関係(0または1)でとらえるのではなく,fuzzinessに基づく2項関係(0,1上の任意の値)でとらえ,よりキメ細かな関係を測定するのである。

この機能間の関係が明らかになれば,われわれの開発したFBD&FEシステムによりパソコン等で容易に機能系統図が作成できるし,同時に各機能の評価ができるのである。本論文はこのような機能系統図の作成と機能評価が連動して行えるシステムの理論を述べ,その適用例を示すことにする。

最近のVEプロジェクトにおける対象は,現流製品から川上指向型即ち開発製品を対象とした,0 Look VEに活動の主体が移ってきている。その理由,目的は色々あるが,しかし企業経営という立場から見た場合,企業の経営基盤は,従来からある製品構成をベースに,機能を追加しプライスを下げて商品価値を向上・伸長させてきたいわゆるマイナーチェンジ製品である。当社における製品構成比率は図1に示すが,マイナーチェンジ製品が1次,2次を合せて約80%を占め,企業経営面への寄与も大である。従ってこれをどのように分析するかが経営体質に大きく関与してくる。そこで本論では,「0 Look VE」路線から今一度原点に立ち返って,経営上のウェイトが高い現流製品をベースにしたVE,即ちマイナーチェンジ製品を対象としたVE活動を新たな目で考察を加え,効果的なその進め方について提言することを目的とする。以下本論で用いるマイナーチェンジ製品とは何か,その用語を次の通り定義づけする。

(1) 新分野開発製品とは(図1の注1参照)

市場にこれまで類似機能を有する製品がない独創的製品で,その範囲は図2に示すごとく,価格的物量的に製品が安定した生産形態に達するまでの製品とする。

(2) 1次マイナーチェンジ製品とは(図1の注2参照)

新分野開発製品が安定化した後,弊害機能の改良など,顧客メリットを加え継続的に市場で発表される製品とする。

(3) 2次マイナーチェンジ製品とは(図1の注3参照)

既存製品をベースに新たに機能を追加,あるいは機能の拡張,他機能製品とのドッキングなど,発展的に開発された製品とする。

わが国にVEが導入されてから,はや20数年が経過した。当初,VEは,経営レベルによって導入されたこともあり,マネジメント・レベルでのVEに対する関心は,非常に強いものがあった。

その後,年月を経るに従って,技法の実践的側面だけが急速に進歩し,実践技法とVEマネジメントとの間の距離は,次第にひろがって行った。

製品をただひたすらに製造するだけで,大きな利益を得ることができた高度成長期には,技法独走型のVE活動から得られる成果だけで,企業は十分満足することができた。しかし,安定成長期に入り,環境が変ると,このようなVEだけでは,企業が必要とするVE成果の達成は困難になってきた。

ここで再び,企業経営に結びついたVE活動の必要性が浮かび上がり,「経営に密着したVEの展開」('85年大会スローガン)すなわち,VE推進マネジメントを模索する時代へと突入した。企業会計とVE成果額との結びつきをテーマにした研究会が発足したのも,この流れを示す1つの事例である。

本大会のスローガンである「VEによる経営効率化への挑戦」もこの流れを示すものである。

本論文は,このような背景から,企業経営とVEをどのようにして結びつけるかをテーマとして取り上げ,その基本的な考え方をまとめたものである。

近年の低成長経済下における産業界においては,特に顧客ニーズの多様化やコスト要求の激化から,VE活動そのものも,それらに対応した多様化が要求され,ハード面のみならずソフトVEの推進等あらゆる局面への拡大が不可欠となってきている。こうした状況の中で,VE活動をいかに企業経営にリンクさせ,拡大充実させてゆくかが大きな課題となっている。

従来のTFP活動のみでは対応しきれない問題をも含めて,企業内でのVEの位置付けから発生するであろう全員参加型のVE活動が,今後増々その重要度を増してくることと思われる。また,それらをいかに効率よく運営・管理し,VEの高度化を計るかが問題であり,VE活動全体の評価がどうしても必要となってくる。

本論文は,全員参加型VE活動を推進するに当っての諸問題を解決すベく,その評価システム,すなわちVE管理システムについて,そのあり方を提言するものである。

商品を開発して顧客に提供する迄のプロセスとしては「何を作るか」と「どのように作るか」という流れがメーカーサイドには有る。その中で「何を作るか」に対応する形でのVAの適用は,昨今,マーケティングVAとか,バリューマーケティングとか言われて商品コンセプト構築段階でのVA技法として,開発されつつある。

一方,「どのように作るか」を検討する段階でのVAの適用は,製品開発段階から,0 Look VAとか,1st Look VA という形で積極的に実施されており,当社においてはほとんどこの面に力点が置かれたVAが展開されている。この製品開発段階のVAにおいては,ともすると構造,方式等の面に検討の中心が置かれ,生産性,組立性を考えた上での分析が,ないがしろにされていた。これは,生産性とか組立性とかが漠然としていて適当な評価基準なり,改善指針が無く,つかみ所の無いことに大きく起因するものと思われる。本論文は,従来比較的軽視されがちであったこの面に焦点を当てて,組立性による機能評価を実施し,それに基づいてアイデアを抽出し,製品構造を決定する技法であり,これを適用することにより,生産性が良く,ロボット組立等の自動組立にも適し,信頼性,保守性にも優れた製品を開発することを意図したものである。