論文発行年度: 2000年 VE研究論文集 Vol.31

企業にとって製品のシリーズ化は、既存技術や改良技術によって既存市場を深耕していく上で非常に有効な販売戦略である。この戦略の下にメーカーは価格づけを行うが、その合理的な根拠は明らかではない。望ましいのは顧客の視点に立ったシリーズ製品の合理的な評価法の確立であるが、現実にはまだなされていない。

本研究はこの方法論の確立を指向したものである。シリーズ製品の例としてカラーテレビを取り上げ、まず、アンケート調査によって調査対象者にシリーズ製品のそれぞれの評価とこれらの製品間の性能差を評価してもらう。次いで、調査対象者の個々人の暖昧な評価額を統合する。さらには、調査対象者全体の代表的評価額と購入率を算出する。これらのプロセスを経ることにより、シリーズ製品の金額評価を合理的に行う方法を提案するものである。本研究で提案する評価法は、企業が製品のシリーズ化を行う上で戦略的売価設定法として活用されよう。

低迷する協力会社のVE改善提案を活性化させるため取り組んだ連鎖工程グループ別によるVE研修会から、全体最適化管理を標榜するサプライチェーンマネジメントに着目し飛躍的改善に結びつけるVEアプローチを導いた。現状のVE活動の拡大と深化を追求するもので、協力会社を分業工程の専門家に見立て、協業パートナーの立場で情報の共有を図りつつ、データベースの構築を図る。さらに、整理されたデータベースをもとにサプライチェーン全体の最適化の調整を図る。そうすることで大幅のコスト削減と協力会社との真のパートナーシップが形成される。この一連の活動の考察についてまとめている。

建設作業所の管理においては、従来の品質、工程、原価、安全管理のほか、ISO導入、建設廃棄物問題など対応すべき事柄を多くかかえている。この場合、VE活動だけを単独に推進することはむずかしく、それら個々の管理とVE活動といかに合致させていくかが問われている。

また、工期および予算面で厳しい工事が多く、従来にも増してVE活動を効率的に実施し、成果を上げ続けるようにすること、さらに、いかに顧客の満足する構築物を提供するかが重要な課題である。

本論文では、従来の作業所VEの進め方を見直して現在の厳しい状況に合わせた、これからの新しい作業所VEの進め方について述べる。

バブル崩壊以後、税収の落込み、バブル期に建設した施設の経営困難、建築工事費の内外価格差等を背景に、公共建築の調達に様々な改革が実施されている。本論文は、近年、建築設計段階に導入されているVEについて、導入の経緯、現状を概観し、今後、建築設計VEを普及させるための課題を整理した。分析対象としたのは、建設省官庁営繕部、郵政省大臣官房施設部、東京都等地方公共団体が発行しているマニュアル、ガイドライン、実施報告と、(社)日本バリュー・エンジニアリング協会による「建築設計VEマニュアル」、およびその検討、作成段階の議論である。VEは主に製造業を対象に開発され、また国内の建築分野への導入は施工段階が中心であったため、設計段階でそれを有効なものとするためには、VEを適用すべきプロジェクトの選定問題、VEの実施時期の問題、VEチームの編成の問題、VEの手法の問題等が存在することを指摘した。

建設のVEは、過去に様々な展開の仕方が発表されている。それらは建設の特殊性を踏まえつつ、建設物のライフ・サイクルにおける一局面を取り上げて研究したものがほとんどであった。しかし、社会環境の変化と21世紀に向けて、建設のVEをどのように受け止め、適用していくべきか、再度考えておかなければならない。

本論文では、建設物のライフ・サイクルにおいてVEをどのように考え、適用すべきか、その実施形態と特徴を述べる。要点は、設計段階、施工段階などいずれの段階でもVE適用方法は同じ形態、手法で可能であり、違いは、構成要素の捉え方、分割の仕方である。そして、建設のVEを社会や大衆に解りやすいものにしていくことが大事であると考える。

なお、VEを活用するには、VEの基本をしっかりと習熟することが肝心である。その上で業種・業態に合ったVEの展開を考えるべきであることを強調しておきたい。

建築工事におけるVE検討は、設計・入札・見積・調達・施工の各段階で企業にとっての受注拡大や利益確保のために実施されている。しかしながら、工事項目が多岐にわたり設計図書が多くなると、有効なVEの対象分野を選定できず、総花的なCR案の提示や仕様の変更提案に終始してしまい、顧客や設計事務所から不信感を持たれる場合も散見される。VE検討が徒労に終わらぬためには、VE検討チームは顧客・設計者の意図を的確に把握するとともに、それを満足する提案をすべきである。ここでは、設計者とVEチームが共通の基盤を持つために、設計図書の表記内容を現行の仕様規定から性能規定に変えることを提案する。そして、機能定義の段階で性能を重視し、設計図書から目標値を類推しながらアイデアを洗練化することにより、ほかの性能に対しての検討も広がり、原設計より性能が上回る仕様が具体化され、波及効果の期待できる提案であることを確証した。

本論文は建設省が3年間で直轄事業において、土木設計VEを試行してきた状況を踏まえ、その間で証明された土木設計VEの有効性を生かし、早く定着させる方法を提案することが狙いである。その結論として、筆者は3年間の国内経験で、日本の風土と土木伝統に満足させたほうが最も有効であると考える。

そこで、官主導型のVEも含めて提案し、移行期間として、建設コンサルタントを始めとする民間はどんな形で協力していくかについても触れた。そうすれば、2010年頃までには土木設計VEが効果を発揮し、よりよい社会資本をより多く後世に残すことができると思う。