論文カテゴリー: VE実例 14件

シャープ株式会社テレビ事業本部に,本格的にVEが導入されたのは昭和39年で,当時はVE自体も日が浅く購買部門と云う,社内の一部門の業務を補助するー技法として導入された。それ以前にも一部の先進的な技術者の間で取上げられていたが,組織としての採用は,この購買によるsecond lookのVEからである。この時はVE活動の範囲の必然性より,コストテーブルの制作による購買基準価格の管理と,VE提案によるものが中心となり,当初よりコストテーブルにはかなりの力をさいていた。

しかし,購買部門のみではFirst lookのVEへの脱皮は果たし切れず,ましてやVE活動を経営の利益計画に直結させる事は困難であった。そこで,VE担当部門の組織が順次移され,現在は経理部門の中にある原価管理グループにおいて行なわれるようになったのである。したがって,当初より続けられていたコストテーブルも,購買価格の基準を設定するのみではなく,VE推進上のコストデータの情報源として,そこに求められる機能も幅広いものとなって来た。これにこたえるべく,昭和44年より新しい構想のもとに,コストテーブルの全面改訂,新制作が進められ,現在では,VE推進上かかす事のできない重要な道具となっている。この様なVE推進上の基軸ともなったコストテーブルについて述べてみたい。

企業経営の健全な運営は,経営計画の綿密な立案と,その実行にあるといえる。企業としては,当然,これ等の原則に従って,健全経営のための運営を必掛けているが,時として,計画に反した予測せざる誤算により,収益確保が困難となり,赤字経営,果ては倒産の事態が発生している。この原因には,計画時点での,万全の予測に基く計画の立案も,予測せざる環境の激変によるものもあるが,実際には,人為的に回避し得る原因もかなり多い。その一つに,技術面での不良,事故がある。

近時,信頼性の思想の普及により,信頼度管理技術が発達し,不良,事故の未然の防止が徹底して来ているが,ややもすると,事故発生を恐れるのあまり,過剰に防衛して,コスト面での破たんを来たすことがある。従って,技術面,コスト面の両面の同時管理が,製品体質の改善には不可欠であり,また,事故の発生を防止することは,工程上のトラブル防止,従って,日程管理の円滑な運営を,附随的に可能ならしめることにもなる。

一方,VA活動は,「機能を損うことなく,最低のコストで達成する」活動であり,コスト,品質の両面を管理して,真の価値改善を計ることである。従って,VAのステップには,改善案のテストや,必要機能(品質,特性も含むと考える。)を保証するステップがある。しかしながら,変更案に対する保証のための,消極的な品質保証体制を,一歩進めて,積極的に,不良,事故の防止を主体とした体制にすることが,「VA,すなわち事故」といった,誤まったイメージの改善に役立たせることができるし,真のトータルシステムとしての価値改善に密着出来るものと考える。

また,VAの対象範囲は,かつての材料費,加工費を対象とした時代から,原価構成比率の変化により,間接費の削減による,経営システムの改善等に指向して来ている。従って,製品原価の周辺コストに対する分析,改善のメスを加えた場合,時として,不良コストが爼上に上ることもある。このような場合,不良コストの削減,歩留りの向上によるトータルコストの削減が,製品価値の改善に結びつくことになり,従って,不良コストそのものを対象としたVA活動も必要であり,VAの基本ステップを,不良,事故防止の場合に適用し得る形に変形したステップの設定は,極めて有意義なことと考え,ここに,適用事例をあげて,ステップの体形を示して,ご批判を仰ぐ次第である。

検討者は2名,検討期間は30時間である。対象機種(カラーテレビ)は,コスト低減の必要があった。そのため,この機種から22項目のVE対象品が選ばれ,各項目ひとつひとつVEする計画がたてられた。シャーシ引出し機構は,そのひとつの項目である。

シャーシ引出し機構各構成部品の情報を収集し,機能定義を行ない,テストまで行なったが,主にその過程の進め方,考え方を中心に記述した。

ステレオ製品の原価の中でキャビネット・コストの占める割合は最大で,シャーシ(アンプ部分〉をしのぐ高価なものである。したがって,企画進行段階でキャビネット・コストの決定は,重要な問題であることは,いうまでもないことである。

では,このキャビネット・コストが,どのようにして煮つめられ,決定されていくのであろうか,また,その過程でVE手法は,どのように使用されるべきなのだろうか。