論文発行年度: 1985年 VE研究論文集 Vol.16

家電業界は顧客の価値感の多様化,商品のライフサイクルの短縮化,10年前とは比較にならない程の技術革新,および他社との価格競争の激化など,ますます厳しい状況のなかで企業の総合的な体質改善を,更に積極的に展開することを余儀なくされている。こうしたなかで,他社よりも,いち早く市場ニーズを適確につかみ,他社と差別化された商品を提供していかなければならない。

当社におけるデザイン部門は,自主独立事業体形式を採用しており,事業部に編入されていない。商品を生産・販売する直接生産部門である事業部には,いわゆるデザイナーと称される人がいないため,当社の発売する商品のデザインの全責任は,当部に課せられている。

また,独算制であり,当部の業務の遂行を効率化させ,価値の高い仕事への転換を,常にはかっていかなければならないという厳しい条件下に置かれている。従って単に人形に衣服を着せるような外形的なデザインだけでなく,どんな人形を作るか,いいかえると商品企画を含めたデザイン業務を企業の他部門と協力し展開していかなければならない。

VA活動が,システマティックに機能を追求するVA技法を忠実に実施することにより,効果的な活動を展開すべきことはいうまでもないが,これらVA活動の成果を左右する最大のポイントは「機能定義」から「アイデア発想」にかけての展開にあるといえる。

機能定義は,VAの特徴であると同時に,その重要性は充分すぎるほど認識されているが,この機能定義の表現があいまいであり,また,断定的にすぎると発想が制限されてしまうので,もっと発想を誘導できるような正しい表現が必要となる。

しかし実際のVA活動においては,この機能定義をあいまいにしても,コストは下がるケースが多いという現実と,機能定義の方法に不明確な部分が多く,実際活動で使用した場合,適当に妥協した"甘さ"のある分析に終始してしまい,機能定義の効果が,今一歩,発揮できなくてVA対象プロジェクトの成果が乏しいものとなっている。

この論文は,このような認識の上に立って,機能定義の機能用語としての名詞・動詞の選定と,その体系化および機能定義(機能領域)毎のアイデア発想に至る着想を,潜在情報から,いかに有効に導き出すかを記したものである。

近年,電子化製品の急増により,製造原価に占める電子回路のコストウェイトが高まっている。企業経営の収益改善にとって,電子回路のVEアプローチが重要となってきた。

本論文は,電子回路のVEの展開について研究したものであり,説明を容易にするために計量機器の具体例をとりあげて記述する。そのため,本論に入る前に,計量機器の電子化移行について説明しておく。

計量機器は,その長い歴史のなかで,これまで機械的な方法(回転力を利用したもの等)によって,その機能を達成しているものであったが,新しい要求に対応して,電子的な方法によって,その機能を達成するものへと着実に移行している。これは,電子回路が,機械につきものの摩擦抵抗を持たないことと,機械系では困難な判断機能を容易に持たせることができるなど,高精度化や多機能化に適しているからである。

しかしながら,単機能の計量機器では,依然として機械式のものがコスト面で優位さを保っているのも事実である。これは,機械式が長期にわたって,その時代にマッチした方法でのコスト改善努力が払われてきたのに対し,電子式は,機能の拡充に力点がおかれてきたためである。

計量機器の生産にたずさわる者は,この事実に目を向けて,VEの成果によって無限の可能性を持つ電子式の優位性を最大限に活かした計量機器を提供するという大きな責任を背負っている。

そのためには,VEの成果を事業戦略に結びつけることであり,VEは,回路技術者の技術談議に終始することなく,企業の利益計画,商品企画に沿って推進することが必要である。VEは,また異なる分野の専門家の集団によって,見方を変えた角度からの発想が必要である。

本技法は,このような観点より,製品戦略に立脚した電子回路のVEアプローチの方法を体系的にまとめたものであり,回路網の機能に対応した最適な方式を生み出すことを目指している。また,機能定義に回路ブロック図を活用したこと,アイデア発想を促す電子回路特有のVE質問を盛り込んだこと,およびアイデアの評価方法を具体化したことが特徴である。そのため回路技術者と他のメンバーが一体となって,VEに取り組みやすい技法となっている。

本論文は,建設業における「新工法開発のためのVE手法」についての研究成果を発表するものである。

この手法の説明は,他産業における「新製品開発のためのVE手法」を参考にしたが,内容の詳細については,建設業の特徴を強調したものになっている。

建設業の特徴は,なんといっても「大自然相手の仕事」という一言に尽きる。この大自然相手ということが,制約条件の中でも,大きなウェイトを占めている。

VE手法を展開していくうえで,非常に重要なこの「建設業の制約条件」を理解して頂くために,その背景とも言うべき,最近の建設業における技術的傾向について,次に述べる。

建設業においては,昨今,顧客から,建設する施設,建物に対して,必要とする性能(遮音性,断熱性,クリーン度,振動etc.)を満足させることを発注条件として要求してくる形態が増えてきている。現在,花形産業である超小型集積回路,ラジオアイソトープ………等のハイテク関連施設はもちろんのこと,他の用途の施設,建物においても,今後さらに,顧客からの発注条件は増加する傾向にある。我々はこれを"性能発注"と称し,従来の一般的発注と区別している。

当社にVEが導入されて,約17年,VEの対象として施工部門の領域から,思考領域を広げ,設計部門の領域より,さらに遡った企画段階までに及んでいる。性能発注への対応は,この企画段階に位置する。

われわれが"性能発注"を依頼された時,まず対応しなければならないこととして,要求される諸性能を十分に把握することである。

事例の少ない施設,建物に要求される諸性能は,往々にして,抽象的,感覚的,または他の事例からの参考的数値で表現されることが多い。

過剰設計におちいらず,要求された性能を満足する適正なものを提供するためにも,われわれは要求される性能に対して,可能なかぎり数値的にとらえ,この数値をもとに,顧客の要求する性能の再確認をし,整理を行う。このことは施設,建物が完成した後において,要求される性能についてのトラブルを防止することにもなる。

機能,性能,品質は相互に密接な関係にある。どれも日常の生活用語であり,ことさらに意識をしないで使うことが多い。

本来は機能を明確にした後に,性能を具体化することが一般的であるが,建築設計においては,まず要求される性能を整理して,内包される諸性能を明確にした後に,機能定義をすることが多い。

近年,鉄道会社の駅務合理化に対応して,駅務自動化機器の普及が進んでいる一方,客先ニーズに応えるべく多様化,高度化,コンパクト化された製品とするために,製品へのマイクロプロセッサ搭載が増加した。これにともない,ソフトウェアの開発量の増大,ソフトウェア技術者の人員不足が生じ,ソフトウェアの生産性の向上および開発費の低価格化が重要な課題となっている。

今回,定期券発行機の新型機を開発するにあたり,ソフトウェア開発費の低価格化の問題に取り組んだ。本論文は,大きな成果が得られた新型定期券発行機ソフトウェアVAに対して導入した,パラメー夕方式によるVA手法について紹介する。

当社は,建設業界の中ではVEを真っ先に導入し,以来,10数年にわたり,作業所におけるハードVE,数年前からは事務部門,管理部門においてもソフトVEと取り組み,着実に成果を上げつつある。

しかしながら,われわれ建設業のVE活動のメインはあくまで作業所を中心としたVEであり,かつ,また取り組みやすく,直接的成果も大きいのが特徴である。

本論文は,作業所におけるVEの取り組みに対する2回の発表"制約条件とVE" "建設作業所における工事ソフトVEの展開"に続く研究成果をまとめたものである。

作業所におけるVEテーマも,導入時には単純な治具工具の改善,型枠,足場工法などの純ハード的な改善が多く,従来の機能展開法で解決をはかり,成果を得てきたが,最近ではソフト的な複雑な工法,システム的問題解決を要求するテーマが多くなっており,新しい解決技法が要求されてきているゆえんである。

われわれは,それらの要求に応じた解決法を"問題点と機能変換,新しい機能評価の手法"等を研究した結果,一応の成果を得たので,ここに発表する。

VEの対象である一般的な製品の開発は,商品企画から製造までのプロセスを,ある開発期間(時系列)のなかで,順々にステップをふんで進めている。

VEは個々の対象に応じて,開発のVE(0 Look VE)設計のVE(1st…)等で,開発プロセスと結びつけ展開しようとしているが,現状のVEのあり方は,いつも対象全体を「一括」(基本機能~未端機能)して扱うことを基本としているため,開発プロセスへの対応・適用という面からみると「しっくり」行かない場面が多々出てくる。

そこで,それを「しっくり」させるために,「VEを分割」し,この分割したVEを開発プロセスの各フェイズに対応・適用し,開発プロセスの流れにそって展開するVEの新展開プログラムを開発したので,その全体について発表する。

この論文は,建築設備工事における作業所VEの対象選定について,新しい考え方を述べるものである。

当社では,VE活動における対象選定のステップを,VE計画会議と称して重要な役割を持たせている。

基本的にはベストよりベターを狙い,多くのVE対象を選定し改善することで,成果の拡大をはかる作業所VEでは,そのVE対象の良否が,効率よくVE活動を進めるうえでの大きな課題でもある。

そこで今回,当支店で実施した過去の数多くのVE事例を分析し,建築設備工事における効率的なVE対象の選定方法を開発したので,ここに発表するものである。

中・長期的な商品に結びついたVE目標を正しく設定することは,VE活動を成功に導くための極めて重要な条件の1つである。

一昨年(1983年)に発表した研究論文「原価低減曲線による戦略的VE目標の設定」では,多くの事例の分析結果から導きだされた原価低減式により,あるべき製造原価の中・長期的な推移を予測し,これに基づいた戦略的VE目標の設定法を報告した。この報告では,あるべき製造原価,すなわち必要な利益を確保するための製造原価の基礎となっている売価低減曲線(Selling Price Reduction Ratio Curve=SPR曲線)についての検討事項は,紙面の関係でほんの一部しか触れることができなかった。

本論文では,まず売価低減曲線について触れ,ついでボストン・コンサルタント・グループの研究で有名になった経験曲線(Experience Curve=E曲線)または習熟曲線(Learning Curve=L曲線)と原価低減曲線(Cost Reduction Ratio Curve=CRR曲線)及び売価低減曲線との関係を明確にする。更に目標の設定を容易にするために年をパラメーターにした売価低減式を検討し,最後に原価低減曲線と売価低減曲線の低減率の差の考察から戦略的VE目標の設定法を述べる。