論文発行年度: 1973年 VE研究論文集 Vol.4

ある人がステレオを買った。この単純と思える行動の中には,実はその人の買うという欲求心が,複雑なコンピューターのごとく動めいて,最終的意思決定がなされている。この欲求心の中でも,外観品について焦点を絞るならば,外観品を選択する動機は大きくいってその人が持つVision,Utility,Economyと考えられる。この中で非数量的なVisionは,流行,合理性,快適性や時代性,そして個人,年令,性別,地位などの社会性,技術,材質,形態,色彩などの造形性が背景にある。このようなVisionは人によって様々であるが,できる限り数量的にとらえる必要がある。

そしてVision,Utility,Economyの関係を,適格に把握するのが外観品VEを進める前提である。

従来,VE手法の企業内導入については,いくつかの議論がなされてきた。

日く,トップの支持と理解を得ること,VEは体験しないと身につかない,VE提案は採用のための説得も充分考慮せねばならないこと。等々である。

かって,ローレンス・D・マイルズは,その著書の中で「失墜の危険排除」についての見解を次のように記述している。すなわち「意志決定に必要な環境」の章で,「新しく価値のもっとよくなるものをつくりだすための組織は,通常1年以内で,十分に機能を発揮するように作りあげることができる。しかし,新しく価値のもっとよくなるものの研究検討で得た結果を効果的に実施に結びつけるための意志決定者の考え方を変えるのには,数年を要すると考えてもよい。」と一般的な企業内の姿をとらえ,その理由と対策を次のように述べている。

すなわち,コストダウンのための良い改善案を,現在の製品にもりこむための採用意志決定の場に際して,現状を変更することが,つねに反対されがちであるから,対策の第一ステップとして「変更に関連する人達の失墜とか,将来の失墜につながるような可能性のあることがらを,最少限にしておくための,できるだけの処置をすること。」と指摘している。

このような観点から,コストが急に下がることに対する関係者段階の失墜の歯止め策を考慮しているうちに,以下に説明するような,「適正購入価格のステップリスト」の骨格ができあがった。

できあがった結果をみると,失墜防止のための歯止め策としてばかりではなく,各種の立場からもステップリストとして使えそうなので,経営上よりの,新製品/量産の管理サイクルまで拡大し,まとめてみたしだいである。

産業構造の変化(技術革新,人件費の上昇,そして労働力不足)は,中小企業にとって何を意味するのであろうか。それは今日の時代がイノベーションの時代と言われているように,中小企業にとっても,企業体質の革新を意味しているのである。しかしながら,いまだ旧態依然の体質から抜けきれず,上記の問題に面して,対応策を見い出せず戸惑っている企業が意外に多く存在しているのではないだろうか。

この論文において,ある中小企業との共同でVEによるコスト低減活動の実践をモデルとして,特にVEの人間的側面の重要性を説明し,VE実施の結果を分析することによって,VEの多面化について考察してみたい。

人間はどうあるべきか。

企業はどうあるべきか,を歴史的な事実としてとらえ,環境を知り,自社の長所短所を客観的に評価し,急所と思われる難問を摘出してそれをシステム的に,生態学的に,インターデシプリナリ的に解決するような,ユニークな教育訓練であることが望ましいのである。しかも啓蒙的教育により一人一人のヤル気,働き甲斐,生き甲斐を高場するものでなければならない。

この高邁なビジョンを達成するため,行動科学を活用した独特なプロセスを順を追って解説する。

WSSは,オリエンテーション,合宿研修の準備作業,および合宿研修会の,3つのカリキュラムから構成されている。

VEは当初セカンドルックのVEより始まり,現在ではファーストルックのVEが当然のこととして行なわれている。しかし,いくらファーストルックのVEを行っているとは言え,その進め方によっては効果において著しく大きな差を生ずるのは当然である。と言うのはファーストルックのVEには,設計段階のVEと企画段階のVEの2つがあるからである。

設計段階のVEとは,すでに企画決定された商品の機能,品質,外観等を維持しながらVE活動をする方法であるのに対し,企画段階のVEは,これから企画しようとする商品の機能,品質,外観などについてもVE活動の範囲内に入れ,それらの妥当性まで追求する方法である。

企画段階のVEは,設計段階のVEよりさらに一歩進んだ方法であり,それはそれなりに多くの問題点を持っているが,当社において過去数年間にわたって実施して来きた方法をまとめてみた。なお本論中の事例は,当社白黒テレビ事業部のものである。

設計者の中には,VEと言う言葉を聞いただけで,拒絶反応を示す人が多くないだろうか……。古くから言われていることであるが,設計者は,非常に繊細な注意と,高度な知識をもって独創的な設計をするが,一方,非常に封建的であり,かつ,自己陶酔型が多いと言われている。すなわち,自ら設計したものは,全て最善であると過信しているが,案外コスト意識には,無頓着ではないだろうか。このため,細かなところまでは注意を払うが,一方では,コスト的に大きな見落しをしてしまうケースが多いのである。これは,設計者が,自己本位の城を築き,固定観念に固まりきったためのものと考えるが,現在のような情報化時代に,新技術,新材料が氾濫している時,自らの設計に,上手に適用し,必要な情報を取捨選択して,その時代時代の技術を吸収消化していけるであろうか,と疑問を感じざるを得ない,そればかりか,企業のコスト力を低下させる一因となっていくものと考えられる。近年発行されている,VEに関する種々文献,レポート等に目を通すと,設計あるいは企画段階でのVEとか,1'ST-LOOKのVEと言う表現が,さかんに使用されているが,その意味することは,要するに,新商品を開発するに当っては,同業他社よりも,コスト力の高い商品を,早期に,しかもタイムリーに開発するには,VE技法をフルに適用しなければ,企業競争に打勝っていけないと言うことを意味していると確信する。

一般によくいわれているように,製品コストは設計仕様の段階で,ほぼ80%は決まってしまうといわれている。製品設計において,材料の仕様,製法,精度などが指定されれば,それ以後の調達,あるいは生産などの段階における,原価引下げも設計仕様に制約を受け,大きな期待ができないのが,一般的である。

そこで,設計者は製品のもっている機能を充分に分析し,その達成方法の最適化を狙う必要がある。その結果,設計の良否は,製品のコストに大きな影響を与えることになる。まして昨今のごとく,物価上昇の状況においては,特に必要機能(二次機能も含む)を最低のコストで達成すべく,製品設計をすることが必要であり,VEの目的に合致する所以である。

建設業への,VE手法の導入についての問題点,およびその具体的な手法については,筆者らによって既に発表したところであるが,今回は,その後の建設業におけるVEの実践を通じて得られた新らたな問題点,およびその解決のために考えられた手法,具体的なアプローチの例について発表する。

この論文はその第一報として,個別受註産業のなやみの一つであるVEの繰返し効果がないこと,そのために,VEは最大の努力を傾注して,最大の効果をねらうというやり方について,企業としての投資効果比率が必ずしも良くないという疑問がもたれていること,そしてこのことについての原因を考えながら,VE効率を簡単に予測出来る方法を考え,BestよりBetterをねらえという筆者らの考え方について述べることにする。

産業界でのVEの適応性は非常に高く,幅広く普及してきつつある。厳しい経済事情の中で建設業界においても,業者側の立場として利益を求めることは必然であり,より高い利益を得ようとする努力の中でVEがこれを満足する1つの手法としてクローズアップしたことは,大きな発見であった。

営利会社として企業利益をあげるためには,少人数のVErで,しかも短時間に問題解決をすることが要求され,VE効率を高めることが最大の関心事の1つである。このことは少ない投資でより高い効果を求めようとする努力であり,前編第1報で述べている。

近年,建設工事の現況は,工期が短縮される傾向にあり,受注即着工が要求されるため,VEによる検討を加える余裕時間はほとんどなく,また,企業の性質上,作業所は各地に分散し,しかもこれらの作業所に配属される職員は少人数の編成が多い。したがって作業所で発生する問題を解決しようとするとき,限られた人員で極く短時間に処理しなければならず,そのための良きリーダーに恵まれることは少ない。こうした環境でVEを進めて行かざるを得ないのが現状である。

このような状態に対処するため熟練したリーダーがいなくても「VEが短時間に効率よく展開できる方法」を研究したところ,3時間で一応の結論が出せるようなVE手順を開発して,実用化することができた。

むろん,3時間で最良の改善案が得られるとは考えられないが,企業のおかれた環境の中でVEを行うためには,BESTよりBETTERをねらうという考え方に立ってこの手法を開発した。以下に手順にしたがって説明し,続いて実践活動を報告します。

建設業へのVE手法の導入についての問題点およびその実施例については,既に発表したところであり,さらに建設業の現状に適したVEの考え方,およびVE手法も開発し実用化していることは既述のとおりである。

しかし,建設業の体質の特異性のため,実際にVEを現場に適用して企業に利益をもたらすためには,VEを現場向きに消化して,建設業に適したVEの考え方,VEの手法を考えていかなければならない。この論文では我々が実際の適用例の中から,建設業に適したVE手法を考えて開発してきたものを,実例をもとにして説明することにする。