論文発行年度: 2010年 VE研究論文集 Vol.41

建築工事におけるVE検討は、設計・入札・見積・調達・施工の各段階で企業にとっての受注拡大や利益確保のために実施されている。しかしながら、検討時間の制約があることとVE検討メンバーの意識高揚を促す方法が未確立のために、大胆なアイデア発想の転換ができず、総花的なCR案の提示か仕様の変更提案に終始してしまい、顧客や設計事務所から不信感を持たれる場合が散見されている。VEが目指す抜本的な代替案の提案を生み出すためには、発想の転換が図れるアイデア発想方法の開発が必要となってくる。

ここでは、施工法に関する問題点の反転置換機能を改善着眼点・目標に設定し、それら

を強制的に組み合わせてアイデア発想する新しい方法を提案する。この発想方法を試行したところ、施工フローを入れ替えるという今までにないアイデアが発想されて、大幅な省力化と工期短縮が図れたことで、高い効果が期待できるアイデア発想方法であると確信している。

公共事業に設計VEが導入されてから既に10年以上が経過しているが、社会的な変化に伴って一つの転換期が訪れている。事業の直接的な影響圏となる狭い範囲で評価するのではなく、社会環境を取り込んだ広い範囲を評価対象とすることで、真の社会価値を向上する必要がある。

公共事業の効用の評価に関して、それを提供する側とそれを享受する側の評価には、少なからず評価の相違が発生している。その原因は、公共事業を提供する側が考える達成すべき機能の捉え方が限定的であることが原因となっている。

この問題を解消するための方法は、事業評価項目を転換することであり、対象地域の使用者要求機能を基本とした評価項目を設定する必要がある。事業の恩恵や影響を受ける使用者を多面的に把握した上で、「相互関係型」によって必要な機能を抽出することを提案する。

また、使用者の要求機能を抽出する方法にも、特長の異なる複数の方法を用意し、対象事業の特性に応じて使い分けることが必要である。本論文では、感性アンケート方式、問題点反転方式、地図による機能抽出方式、の3方式を提案する。いずれもまだ適用事例が少ないことから、今後、適用対象を拡大して機能抽出方法として確立する必要がある。

最近各企業では収益性の向上と競争優位性を確保するため、製品の価値創造と平行してサプライチェーンの競争力強化が進められ始めており、今後、VEを用いてサプライチェーンの価値創造が活発に進められるはずである。そこで本論文は、サプライチェーンの価値向上を図るVEを効果的に実施するためのアイデア評価方法を提案するものである。

従来は、サプライチェーンの価値向上のために発想した資金投入期間を短縮するアイデアについては、その効果を定量的に評価することができなかった。そのため、アイデアの具体化の段階で機能とコスト両面からの達成度を高めた代替案までに洗練化することがむずかしかった。そこで本論文では、発想したアイデアの資金投入期間減少効果を時間短縮として評価するのではなく、Jコストの考え方を用いることによりJコストの減少量に変換することで機能とコスト両面の評価を効果的に実施することを提案する。

製品企画、開発では、機能(名詞と動詞で表現する働き)と機能の制約条件(その達成水準と制約)を決めることが重要である。しかし、VE技法における品質概念が不明瞭なため品質設定がおろそかになる傾向がある。一方、品質検討を補うためQFD(品質機能展開)技法が活用されることもあるが、逆にこの技法は、機能を定義する手順が明確にされず機能の達成水準のみを追求する嫌いがある。さらに、現状は、機能からの製品検討をVE活動、達成水準からの製品検討を品質活動と活動を2極化する傾向があり、製品開発上の統一性を欠く大きな問題もある。この状況を解決するには、VEにおける「品質とは何か?」を機能定義技法の原点に立ち考察し、明確にすると共に機能と品質を一貫して追求する技法が必要と考える。本論文は、機能の制約条件を簡単明瞭に設定する強化策として機能に対する品質を明確にした品質的なアプローチを取り入れた技法を提案する。具体的には、顧客、使用者の要求事項をインプットに基本機能とその目的別達成度を設定し、新機能系統図表法を用いながら機能的かつ品質的に魅力ある製品企画を決めていく。本論文は、機能と品質を一貫して検討する足がかりとして機能定義の範囲に言及して述べるが、製品企画立案時においても十分使用可能で貢献できるものと考える。

人口減少時代への突入、少子高齢化の進展、地域間競争の激化など社会情勢が大きく変化しているなかで、道路、河川、都市計画等の社会資本整備のあり方が問われている。

そのような状況のなか、2009年9月には「コンクリートから人へ」をキャッチフレーズに、民主党政権が誕生し、公共事業予算も大幅に削減された。

国や地方公共団体では、公共事業の設計段階におけるVE(以下「設計VE」という)が導入されているが、効率的な社会資本整備を行うためには、改善効果が大きく、設計段階よりも上流側にある、企画段階、開発設計段階でのVE手法の導入が必要である。

本論文では、公共事業の企画段階、開発設計段階に相当する、社会資本整備(公共事業)を実施していく上での指針である「社会資本整備基本計画」の策定にVE手法を適用することの効果と、その手法について紹介する。

VEは一般的にコストダウンの手法だと誤った理解をされている一面がある。そのため、コストダウンした部品で不具合が発生すると「VEのやり過ぎが不具合を引き起こした」などと言われる。VEを推進する立場として、こういった誤解や偏見を払拭するためにも、自分が関わったVE事例や指導したチームのVE事例では絶対に不具合を発生させたくないと考える。

技術的な不安を残さず代替案へ移行させるためには、「具体化」のステップで欠点を漏れなく克服する必要があるが、欠点を全て把握することは困難である。そこで、VE事例の心配点、懸念点を漏れなく洗い出し克服するために、未然防止のための問題発見手法の1プロセスであるDRBFM(Design Review Based on Failure Mode)を活用したVE実施手順について検討を行った。

本VE実施手順では複数回実施するデザインレビュを通じて、VEチームメンバ以外の社内有識者や経験のある諸先輩方、チームメンバの上司達を検討中のVEに巻き込むことで、全員が当事者であると認識してもらい、代替案の実現化まで様々なサポートを得やすくすることと、VEを正しく理解してもらうことを副次的な狙いとしている。

本研究は、原価企画の支援業務を改善するために、VEの5原則から原価企画の支援業務に対する受援者側の視点と切り口を決め、改善に必要な機能を抽出する方法を提案し、その有効性を明らかにするものである。要旨の第一は、原価企画の支援業務に対する改善視点の重要性を明確に述べた。第二は、この受援者の視点と切り口を三つのマトリックスにまとめ、機能抽出する方法を提案した。その受援者の視点は、支援者本人の立場と支援業務を評価する立場である。改善の切り口は三つである。一つには、順機能からの機能抽出、二つには、逆機能・実際認識からの機能抽出、三つには、要望からの機能抽出である。最後に、これらが原価企画の支援業務の改善に効果的であることを明らかにする。

経営者やプロジェクトリーダーの多くは、限られたリソースをどのように配分し、全体の価値を最大にすることを常に考えている。筆者は、限られたリソースの配分を最適化し、価値を最大にするテクニックを開発した。

VEは、問題解決に優れた方法論である。それを、経営やプロジェクト全体に適用するためには、複数の問題解決を同時にマネジメントする必要がある。全体の価値は、個々の価値の総和ではなく、リソースの総和と機能の達成度の総和の比であるということを、図で表すことができた。その図が価値管理曲線(Value Management Curve)である。

価値管理曲線を身に着けることで、企業やプロジェクトの特徴を分析することができると同時に、多くの経営企画や事業企画の一助となるものである。

昨今の製品開発には、性能や機能のみならず、製品のコスト低減が重要となっていることは、どの企業でも同様である。海外メーカーや海外生産製品の均質化により、企業が生き残るために、コストは製品開発の中でも非常に重要なファクターとなっている。

それ故、必要な機能を満足し、必要な利益を上げるために、製品開発に原価企画を導入している企業が多い。

さらに、製品については、ユーザーニーズの変化や多様化により、多くの製品ラインナップを揃え、さらに、各々の機種に多岐にわたるバリエーションが必要となっており、多品種少量化への対応が余儀なくされている。

製品の種類が増加すれば、それだけの部品が新たに発生する要因となる。当然、部品点数増大がもたらす弊害が懸念され、部品の増大を防ぐため、共通化は製品開発を行う上で必須項目となる。

本論文では、製品ラインナップを構成するシリーズ製品群の開発に、原価企画活動を適用する際の「シリーズ製品共通化計画」の立案方法について考察する。