論文発行年度: 1983年 VE研究論文集 Vol.14

建設業にVEが導入されて10数年になる。建設のVEが企業活動にいかに貢献してきたかは,ここであえて述べるまでもない。

建設VEの対象は,一般的に図-1のように考えられている。建設VEは仮設等の生産設備を主な対象として発展してきたが,ここ数年の傾向をみると,一般管理も含め生産手段等の物以外(ソフトウェア)の適用事例が増えてきている。生産手段の中の工法・作業手順へのVE手法と,その適用の重要性については,いくつかの論文でもとり上げられている。特に建設業においては,工期短縮を対象としたVE適用手法の開発は,受注競争を背景として非常に重要な課題である。

当論文では,建設工事の工期短縮をより効果的に行うためのVEの適用方法について述べる。

逆オイルショックに代表される激動の1980年中期を迎えて,世界の経済情勢は,一部の業界を除いて底冷えの状態にある。この零サム時代を生き残るには,世界中の業界をしのぐ強いコスト競走力をつけた企業にならないと,現状設備の稼動を維持できないことはもちろん,利益の維持増加をはかり,次世代の新分野ヘシフトして行くことは困難になってくる。

これを乗り切る一つの方策として,固定費増加をもたらさない購入材料を,高効率的に用いる新材料VE技法を開発した。この技法は,材料多消費型の装置産業に高い効果が見込まれるが,他の業界においても,有効的な適用がはかれる。これを『商品分析』と命名し,その応用発展をはかっている。

繰り返し行われる改善活動により,各種VE対象の改善余地が低下してきている。改善余地が低下するVE対象から,更に,所定の成果を得るには,機能的な物の見方が有効である。しかし,機能的アプローチを行うVEで,最も重要な機能分析が,上手に,容易に行えない実状にある。これは,日常生活での物の見方,考え方が即物的,具体的であることが多く,機能化,抽象化に慣れないためと考える。不充分な機能分析は,機能にかかわった代替案の創造を困難にし,更に活動メンバーのスキル,能力差も影響し,改善案の発想にも差が生じる。今後,改善余地が低下するテーマから,必要な改善成果を得るため,これに見合う分析技法と,創造技法の開発の必要性を感じた。そのー解決技法として「PASS-VE」を開発したので,その考え方と技法について,以下に説明する。

VE活動は,利益確保への最も有効な手段の1つとして定着してきている。特に家庭電気製品では,現在,限界普及率に達しているものが多く,生産増による利益拡大は困難な状況にあり,VEに対する期待は,ますます強くなっている。従って,VE予算編成に当っては,他社価格を意識した上で利益を確保する,「かくあらねばならないという予算」となってきているのが現状である。

このVE予算を必達するために,VE実務部門は,BTC手法など活用し,日夜努力をしている。しかしながら,利益目標から出されるVE予算と,実務部門でのVEアイテムの積上げからのVE実現額との間にギャップがあり,割りつけ業務を行うVE推進スタッフ部門では,図-1のように,両者の板ばさみになっている。

利益計画の目標をVE予算にブレークダウンし,実現可能な目標にするためには,VE実務部門に対し根拠があり,具体性のあるコスト割りつけ資料の提示が不可決である。

これらを解決する手段として,VEアイテムが裏づけされた上での目標コスト割りつけを行う方法を考え,今回「VEコスト割付技法」の開発に至った。

以下,本技法の考え方,手法などについて説明する。

企業をとりまく環境は,質的,量的,両面の変動,さらに,その変動サイクルを早め,複雑化の一途をたどっていることは,論をまたないところである。このため,各企業とも,多数の対応策の中から,即効性のあるVA/VE活動に注力している。当社,当事業部においても,なんら例外たりえず,経営改善のよりどころとして,活発なるVA/VE活動を展開している。

しかしながら,VA/VE活動は,その大儀にかくれて活動自身の効率化,および管理は,十分に行われているであろうか。

ここに,本稿は,VA/VE活動の効率化をはかるとともに,活動の若干の管理的意味をも含めて,われわれの経験のなかから整理し,実用に供している技法について紹介するものである。

企業の存続と発展は,構成職員の"やる気"と"うで"と"健全な組織体"としての自覚を,バランスよく維持向上させているかどうかにかかっている。VEという管理技術は,「うで」を向上させ,その成果に魅入られて「やる気」を出し,結果として「健全な組織体」ができ上るという,時代の寵児ともいえるもので,低成長の分ほど,この持続的な努力の要求される時はないといってよいと思われる。

建設業は,VEの特に適した業種と実感されるが,VEの適用局面の拡大と発展を,更に,はかっていくためには,建設業で永年培ってきた固有の管理技術の特色を生かしながら,新しい方法と結合させていくことにあると思われる。3時間VE,100分VEなどの短時間VE志向が「ベスト」より「ベター」を狙う建設業の体質に合って効果をあげているのも,こうした理由によるものである。

しかしながら,短時間で処理する際,前線で実践にたずさわると,いろいろのひずみが生じてきている。一番重要なことは,VEの特色である機能定義,機能分析の時間を縮少して,中途半端なまま前へ進み,欠落機能を出したり,逆に,不慣れなため時間をとられすぎて,他を圧迫するなどのケースが多いことである。

本報告は,それ等を解決する目的で,建設工事を対象として短時間でできる機能分析の実用的方法の考察を,行ったものである。

オーディオの市場は,使用用途の拡大,新機能の開発等により,顧客のニーズにうまく対応しながら,その売上げを伸ばしてきた。

一方,商品の普及率の向上と成熟化により,業界の競争は,ますます熾烈をきわめ,一段と厳しい展開となりつつある。

厳しさを増す市場ニーズは,同時にユーザーの価値観の多様化と商品のライフサイクルの短命化を促進し,それに即応した商品の開発が望まれる。

ステレオ商品のカテゴリ一変遷を(図-1)に示す。商品の多様化とライフサイクルの短命化を物語っている。

オーディオの普及率は,すでに60%を越え,経済情勢も世界的な不況のなか,消費者の動向は変化し,

(1)今すぐどうしても必要なものだけ

(2)本当に魅力のある価値の高いものだけ

(3)他人と差別化できる個性的なものだけ

(4)衝動買いから計画的購入

へと変貌し,V=F/Cにおける"C"あるいは"F"へかたよるのではなく,"C"と"F"のバランスの良さが要求される等,市場ニーズは,ますます厳しいものとなってきた。

単なる製品のコストダウンやモデルチェンジでは,すでに対応しきれず,これまでのセールスポイントである単なる「業界初の機能搭載」といっただけの開発対応では,商品価値が高いとはいえなくなってきた。

こうした背景の中で,他社に一歩先んじる商品開発を実行するため,特に,ニーズとシーズの融合化をはかり,しかも,技術蓄積を生かした優れた商品の設計活動がなされるような設計の進め方に関しての仕組み作りを行いつつある。

この仕組みを,PSM設計(Paralell Design System by Seeds Stock Method)と仮称している。

本稿では,このPSM設計法の考え方と進め方を紹介する。

当工場は電力量計,通貨関連機器,情報関連機器等のファインメカニクスとエレクトロニクスを結合させた製品,パワーエレクトロニクス分野の半導体製品を生産している。

これら製品のおかれている状況をみると

①技術の革新,品質に関する市場ニーズの高度化による機能の多様化

②競合各社の価格競争の激化

等により,製品のライフサイクルは非常に短くなってきている中で,企業が維持拡大をはかるには,より早く新製品開発を行い,市場に供給することが重要である。

このためには新製品開発において,機会損失を最少にする手段として,有効的なVAを実施しなければならないことは,周知の通りである。

当工場は,昭和52年に製品,部品,資材分野を対象としてVAが導入され,昭和53年には新製品開発分野へと拡大をはかり,昭和57年にはVAテーマの約半数を占めるまでに発展した。

これは本論文で紹介する改善により,開発時のVA活動の効率化をはかったことが大きい。

なお,本論文における新製品とは,タイプチェンジ(モデルチェンジ),マイナーチェンジ,系列補完をいう。また,開発ステップの適用場面では,主に構想および試作設計段階を示している。

VEを推進する企業として,特にVE適用局面の拡大については,計画的に,これを実施していくことが必要である。当社においても,今まで,作業所VE・設計VE並びに管理部門としてのソフトVEなど,多くの分野に挑戦し,それなりの成果をあげてきた。また,トータルVEを,一層,効果的に実施するため,種々の戦略も投じてきた。VEは,無限の資産であり,われわれは,一層の効果を期待して,今回,更に,その適用分野の拡大をはかるべく,従来,実施されていなかった見積時におけるVEの積極的導入をはかるために,手順の要点をまとめることとなった。設計事務所など,他社が設計した建築物に対し,施工を請け負うという建設業の特異性のもとでは,見積時点は営業活動と相ともなって,仕事の流れとして最も川上に当るものであり,そのVE効果は,はかり知れないものが期待される。本論文では,前述のごとき,建設業特異の見積時の業務の進め方と,その問題点を分析し,この時点でのVEを効果的に導入するためのジョブプランを作成し,「今まで,実施困難とされていた見積業務へのVEの導入」を可能にした。以下に,要点を発表するものである。

近年,コンピュータの著しい普及と高度な利用によって,そのソフトウェア開発量は年々増大し,かつ,その処理も複雑化してきている。

一般的にソフトウェアのライフサイクルコストの多くは,後戻り作業で,これは不完全なコーディングに起因しているものや,処理仕様書の品質バラツキと不良によるものが,ほとんどであるといっても過言ではない。

本開発技法は,これらの点に焦点を当てたものである。すなわち,処理仕様書が作られる要素である顧客要求の機能及び条件・制約などをまとめた「計画設計書」を分析し,従来,個人・個人の頭の中にある知識から,経験から,感情から等で作業していた不特定要素を除去してやることからはじまる。よって,本開発技法は,まず,IPO機能展開法(IPO:Input-Processing-Output)を作成して,ソフトウェアの機能を明確にし,このIPO技法により,最終的にビジュアル化された機能展開図及び機能系統図をベースにして作成される各種ドキュメントの工数及び技術レベルの評価・分析を実施できるようにして,実際作業の高効率化をはかろうとするものである。

IPO機能展開法,及びIPO技法による実際業務の評価分析法の2点について,その概要を説明する。

当工場は,エレクトロニクス製品を生産しているが,近年はマイクロコンピュータ,エレクトロニクス等の技術革新が激しく,それにともない製品のライフサイクルも次第に短くなってきている。この熾烈な競争に打ち勝つためには,新製品の開発,既製品の高機能化,小形化等のモデルチェンジを短期間に実施して,市場に展開していくことが,必須の条件となってきている。

VE活動を実施するにあたり,新製品の開発,既製品のモデルチェンジ等を効率的に実施し,かつ,大きな効果を得るために,機能展開のー技法として,ハードイメージ化によるFC分析技法(FC:Function and Cost)を開発,適用し,大きな効果を上げたので,以下報告する。

一般に機能分析は,VEの実施手順として広く採用され,その重要性も深く認識されているが,実際の運用面では,十分に実施されているとはいい難い。

その理由として

(1) VE活動メンバーは,一般的に製品をよく知っている設計者が主体となるため,対象製品の機能は,すでに頭の中で理解しており,いまさら面倒な機能展開はやらなくてもVEはできる,という考え方が支配的であること。

(2) 機能分析法は,対象となる製品の形,物といったハ一ド的イメージから遊離された考え方の方向性をもったため,特に設計者との相性が悪い。

等がある。

本開発技法は,ハード的な物(部品または装置)を機能と対応させてイメージ化し,機能展開を,より簡便に現実的なものとして実施しようとするものである。

当工場の製品分野は,電力,一般産業,公益および交通等,幅広い市場を有しているが,いずれもユーザーのニーズは,時代を先取りした合理化,省エネルギー化を指向したシステム製品が主体である。

このため,プロコン・システムの高度化,マイコン応用製品の増大化傾向は,顕著なものがあり,年々これらソフトウェアの比重は高まる一方で,この分野へのVA技法の導入と,VErの養成は大きな課題となっていた。

従って,プロコンおよびマイコンに関するソフトウェア(以下ソフトと呼ぶ)のそれぞれの専門家の参画を得て,ソフト部門が共通に利用できるようなソフトVA技法の開発を進めた。その結果,今まで未開拓ともいえるソフトの分野に対し,VA技法の導入を行ったので,その内容について,次に要点を紹介する。

建設業が一品生産であり,VEの量産効果があまり期待できない以上,少しでも多くのVE改善テーマに取り組み,改善件数でそれらをカバーしなければならないことは,過去の論文で述べられている。

これまで当社の作業所VEは,VE対象選定会議(VE計画会議)によってVE対象の摘出を行っている。従来,ここでとり上げられる対象は,主として顧客の要求する機能や,それらを達成する手段として二次機能を中心に検討されてきた。これは設計図書や見積書を中心にしたVE対象の選定であり,機能的側面を最重点にしてきたためである。

1つの建造物を建設するには,その地域の自然的特殊性を理解し,さらに法令や行政指導を満足するなど,さまざまの外的な制約条件をはじめとし,安全や品質確保のため,種々の企業内規程を順守しながら,設計図に示されたものを構築することになる。

作業所VEでは,それらの制約条件に対して,いかに対応するかが施工上重要な鍵であるが,従来,施工経験の豊富な,いわゆるベテランと呼ばれる人達の勘にたよりすぎていた点は,大いに反省すべきところである。

今まで,これら制約条件に対し,何の抵抗もなく通りすごしていたVE対象選定の中で,今一歩,追求を加え,果して「本当に制約条件であるか否かの掘り下げ」と,「制約条件をVE対象として,積極的にとりあげる」などVE対象選定のトータル化と,一層のVE活動の活性化を目指して研究を続けてきた。

この論文では,制約条件に対するVE対象選定の考え方と手法について,その内容を詳述する。

製品のVA活動を実施局面からみると,下流の段階,すなわち2nd Look VAになるに従い,制約条件が多く,実施効果が少なくなる。また,製品のライフサイクルからみると,成熟段階になるにつれて難しさを増す。このため,労力のかかる割には効果が小さい。

同じ製品のVAを何回も実施してくると,前の改善個所や問題個所が知り尽くされ,マンネリ化が生ずる。しかし,"改善の余地なし"といった抽象的な判断は,過去のVA実施回数や,独自の創造力に影響された個人的判断であることが多い。

一方,価値改善活動であるVAは,実施した結果,どの程度,価値改善がなされたかを知る必要がある。これを客観的に把握することができれば,明確な目標の下に,改善の余地があるか否か判断ができる。価値を客観的に把握するための方法としては,いろいろあるが,それぞれ一長一短がある。

本論文は,ユニット部品などの価値改善結果を,できるだけ客観的に把握するために,VA技法をまとめ上げたものである。また,本技法は,分析過程で,改善すべきポイントの発掘も可能である。

以下,本技法開発の背景,考え方,実践応用例について紹介する。諸賢のご批評をお願いする次第です。

VE活動が企業の収益改善に重要な役割を果たしていることは,今更いうまでもない。VEがわが国に導入されて以来,VEの戦術的側面,すなわちVEテクニックは,長足の進歩を遂げ,今後も更に発展することが予想される。

しかし,現在のVE活動が,企業の期待する役割を十分に果たしているかとなると,必ずしもそうとはいい難いのが現状である。

たとえば,ある不採算製品をとらえてVE活動を実施し,実現化時点では大きな成果が期待される結果を得たとする。しかし実際は,実現化時点,またはその後しばらくして再び不採算製品に転落するケースが多い。

このようなケースにおけるVE活動の最大の問題点は,間違ったVE目標値の設定であり,企業経営の立場からみた戦略的VE活動としての評価は,極めて低い。

価格競争の激しい製品の売価は,時間の経過と共に,急激かつ着実 (Quick and Steady) に下がる。「急激な売価ダウン」は,短期的にみると市場環境によって左右される場合が多いが,中・長期的にみると,プライスリーダーとなる主力企業のコストダウン戦略にかける強い意思が,その背景となっている。

本論文は,「急激な売価ダウン」に十分対応できるような戦略的VE目標の設定について,研究したものである。

具体的には,厳しい市場環境にある各種の製品について,製造原価の推移を原価低減曲線によって解析し,これらの資料をもとに,VE対象製品の中・長期的なあるべき製造原価の予測方法を確立した。

その結果,市場の急速な売価ダウンに対応するためには,大幅なモデルチェンジをともなう1st Look的なVEの実施が,前提条件となることが判明するとともに,その実施時期との関連において,中・長期的VE活動を展開する上での戦略的VE目標の設定が可能となった。