論文発行年度: 1972年 VE研究論文集 Vol.3

企業の発展は,情報なくして成長しないとまで云われている今日,いかに速く,目的達成のために必要な情報を集めるかにある。それでは,どのような情報を収集したらよいか,ここで取り上げる情報収集は,ただ,やみくもに収集するのでなく,VE活動の機能分析に基づいたアイデアの提案を,ただのアイデアだけですますことなく,使用可能にするための代替案(代替品)の情報収集活動である。

いわばVE活動は情報活動の結集であり,その成果は情報がいかに上手に利用されたか,その巧拙にかかっているといっても過言ではないのである。以下,これら情報収集の利用について述べることにする。

設計段階のVEが,企業にとって経済的かつ最も効果的であることに異論を唱える技術者や経営者はいないであろう。日本を取巻く国際環境の厳しさは,真の意味での,より高い価値の創造を待望しているといっても良いであろう。しかしながら1st Look VEの必要性が多方面から叫ばれている中で,これをはばむ制約条件を克服できず苦慮している企業も案外多いのではなかろうか,これらの原因の大きな要因のひとつに大きな収益が潜んでいることを充分に承知しながら,発売時期などの関連で,見切発車をする例がある。これらはある意味で有効情報を確実に,しかもタイムリーに供給し得なかったバリューエンジニアに,その責任の一端があるともいえる。私は価値の高い商品を世に送り出すため,高度の個有技術と相まって,これらのベースとなるVE関連情報について,収集の方法や供給源を示し,1st Look VEを短期間に,タイムリーに実施するための考察を試みようとするものである。

VA/VEは広い分野で活用,実践され,多大の成果を達成して来たのであるが,さらに70年代の革新時代に適合するように高度化し,一段と効果的にして,飛躍すべき時機に来ている。そのためには先づマーケティングと統合することが最も効率的であると思うので,その必要性について私見を批歴するものである。

VEを狭義に理解した場合,それは利潤追求のための原価低減のための手法として認識される。しかしその真髄とするところは「価値の概念」と「機能の追求」およびその組合せである「全体の効率」を追求するものであろう。

こう考えるとトータルとして考えた場合,QCもIE,あるいはソフトのシステムについてもテクニックが違うのみで,その狙いとするところは何ら変るところがない。

しかし重要なことは「VEには決った手法がない」と言われるように,VEは概念規定が主であり,この概念規定をそれぞれの分野における専門技術,および管理技術としてのQC,あるいはIEといった具体的な手法を用いて実務家が,いかにテーマを具現化するかと言った点にあろう。

したがって,これから述べようとするところは,VE的な概念をもちいて,我々が指向しているコンピューターを中心とする購買管理業務をいうソフトウェアのシステム作りについてである。

VEの思想は,ユーザー・オリエンテットである。すなちユーザーは,必要とする機能を最も少いコスト(ライフサイクル・コスト)で得たいとする欲望を持つ。一方,機能を提供するメーカーは,ユーザーに対し,必要機能を確実に保証すると同時に,この機能と最低のコストで入手出来ることを約束し,一層の満足度を与えなければならない。

そのためにメーカーは,ユーザーの認める機能とコストとの関係を,製品の開発設計段階で徹底的に追求(First lookのVE)し,ムダな機能とコストの発生を未然に防止させたり,生産準備,製造段階でこれを改善(Second lookのVE)に鋭意努力を積むのである。

VEの目的は,最低のライフサイクルコストで必要な機能を確実に達成することである。VEは製品の価値改善手法として,これまで主に機械工業において,製品の設計製造段階で適用されてきたが,最近は装置工業においても設備の使用段階への適用がすすんでいる。

VEの基本は,徹底した機能追求の思想であり,ジョブプランにもとづいて具体的な価値改善活動を展開する。このなかで,機能定義と機能評価のステップは,VE活動の範囲と方向を決定し,その成果と効率に大きな影響を与える重要な段階である。

VEを特徴づける機能追求のテクニックは,これまで製品の設計製造段階での適用面において開発されてきた。しかし,VEを設備の使用段階に適用する場合に,これらのテクニックを,そのままあてはめることは適切でない。組立製品を対象とする設計製造段階VEと設備の使用段階VEとには,いくつかの相違点があるからである。この論文では,設備使用段階のVEにおける機能追求の方法を検討する。

機能を科学的に,あるいは,合理的に評価することは容易なことではない。価値分析の場合,この機能評価は価値評価ということであり,価値分析の最初にして最後のテーマであろう。

機能評価が意の如く行なえないのは,機能の多様性もさることながら,評価者の立場上の限界,あるいは制約があることを見逃してはならない。以下の論述は消費財について展開するが,一般的には商品の供給者(メーカーと考えよう)の立場から,機能の研究や評価がなされ,ここに需要者(ユーザーと考える)の欲求事項は満たされているとはいえない。

もともとメーカーとユーザーとは,立場を異にしており,どんな価値概念をもってしても,両者に共通するものはない。そこで,従来の価値分析は,ユーザーの立場を理解したつもりになって,メーカー的センスのもとに行なわれてきたが,これに対する反省も必要となってきている。

本稿はユーザーの立場を重視した(user oriented)機能評価のアプローチと,価値改善の方法展開を試みたものであるが,併せてesteem valueを伴った消費財の評価法や,従来ではあまり実用化されていなかった機能系統図と構造系統図との有機的関連性についても,ある新しい試みをもってアプローチしようとしたものである。

工程改善への管理技術的アプローチとしては,QCやIEがふるくから適用され,大きな成果をあげていることは衆知のことである。しかしながら,工程改善へのVE手法によるアプローチに関しては,以前より叫ばれていながら,今日,まだこれといった成果事例が少ない。

この背景としては,VE手法そのものの誕生が,製品の改善を主体としていることと,また,その後の発展の歴史をみても無理からぬことと考えられる。

ところが,工程というものを,インプットされたものが何らかのプロセッサー(処理機能=工程)によって,新しい価値が付加されてアウトプットされると考えるとき,工程は価値分析の対象となり得る。

すなわち,(1)工程によって一定の機能を付加するために,工程の処理(作業,加工等)に要するコストを小さくすることによって,工程の価値を向上して工程改善をはかる方向と,(2)一定の処理(作業,加工等)コストでもって,付加する機能を大きくすることによって工程の価値を向上して,工程改善をはかる方向とが考えられる。

したがって,工程改善に適合したVE手法を用いれば,従来のQCやIEと異なった観点,というよりはもっと総合的な観点から工程改善が可能となり,大きな成果をあげることが可能であると信じる。

そのためには,工程改善にVEアプローチが可能となるように,工程の価値の定義を明確にし,機能分析の方法論を確立する必要がある。

以上の考えから,ここに工程改善のためのVEアプローチのための一つの方法論と,これを組立工程に具体的に適用し,成果をあげた事例を提示して,諸賢の御批評を仰ぐ次第である。

シャープ株式会社テレビ事業本部に,本格的にVEが導入されたのは昭和39年で,当時はVE自体も日が浅く購買部門と云う,社内の一部門の業務を補助するー技法として導入された。それ以前にも一部の先進的な技術者の間で取上げられていたが,組織としての採用は,この購買によるsecond lookのVEからである。この時はVE活動の範囲の必然性より,コストテーブルの制作による購買基準価格の管理と,VE提案によるものが中心となり,当初よりコストテーブルにはかなりの力をさいていた。

しかし,購買部門のみではFirst lookのVEへの脱皮は果たし切れず,ましてやVE活動を経営の利益計画に直結させる事は困難であった。そこで,VE担当部門の組織が順次移され,現在は経理部門の中にある原価管理グループにおいて行なわれるようになったのである。したがって,当初より続けられていたコストテーブルも,購買価格の基準を設定するのみではなく,VE推進上のコストデータの情報源として,そこに求められる機能も幅広いものとなって来た。これにこたえるべく,昭和44年より新しい構想のもとに,コストテーブルの全面改訂,新制作が進められ,現在では,VE推進上かかす事のできない重要な道具となっている。この様なVE推進上の基軸ともなったコストテーブルについて述べてみたい。

産業界の発展とともに,近年,特に協力工場の戦力と能力が重要なポイントとして,認識されてきました。

これは親企業としての単一企業でなく,協力工場を含めた企業集団としての総合力が企業の存続発展の「決め手」であるという事が,激烈な企業間競争の体験の中から,切実な問題として感じてきたからです。

このため協力工場の体質改善強化,生産性向上に対する努力が行なわれており,その有効な武器として,QC,IE,VEなどの管理技術が駆使されています。

しかしながら,これらの管理技術の中で,VE活動については,QC,IEの普及定着度との比較において,残念ながら劣っていると認めざるを得ません。

これまでの日本のVE活動の歴史は,親企業が中心であり,VEは親企業がやるもの,あるいは,一部のスペシャリストがやるもの,としての風潮が大勢を占めていたと思います。

このような認識と現状のままでは,親企業と協力工場にとって,今後の企業存続をも左右する,重大な問題です。この論文では,親企業および協力工場にとって,"協力工場のVE活動が何故必要であるか" "VE普及定着化を阻害しているものは何か" "VE普及定着化のための進め方と留意点"について,その考えを述べてみたいと思います。

かって60年代においては,わが国企業は経済の高度成長の中にあって,ややもすれば売上高の増大,シェアーの拡大などにより,利益の確保と賃上げの吸収を図ってきたが,今後は経済成長が鈍化する中で,賃上げの吸収と利益の確保を実現してゆかなければならなくなった。

さらに,わが国は原材料,燃料等の量的な問題から諸資源・諸エネルギーを含めた,知識集約産業型への構造転換に迫られている。

したがって,従来の高度成長に慣れ切ってしまった経営感覚を断って,経営体制を根本的に再検討していくことが必要であり,今後,企業にとってはソフト・テクノロジーの開発と,導入が非常に重要になることから,経営の質的高度化・効率化は,70年代における最も重要な課題といえる。

そこで,わが国の企業経営における質的高度化・効率化を図るとき,どのような問題の解決が重要なのかを検討してみた。

本稿は競合市場における,新規商品の企画の分野を対象に,VE技法による商品機能編成へのアプローチ方法を論じたものである。その基本的姿勢はVEの基本定義を次の様に置き換えてアプローチしている。

「事象の本質的目的を追求するために,その必然性を比較分類,分析し,それらを定量的に把握し,そのデータをもとに技術的に,さらにマトリックス的(組織,原価費目)に改善を図り,新しい個性ある姿を創出していく活動。」