論文発行年度: 1971年 VE研究論文集 Vol.2

VEが日本に導入された当初は,資材費のコスト低減を狙った購買部門の技法として,各企業に広まったが,その後,企業間競争はますます激化し,より大幅なコスト低減を図るため,製品のライフサイクルの上流での適用,つまり,設計段階のVEを進めていく必要に迫まられてきた。そのため,各社ともVE担当部門を,購買部門より技術部門へと移行して,積極的にVEを展開してきた。しかし,われわれVErは,その必要性,効果を充分に認めながらも,実際の場においての効果的な展開方法とか,成果測定の困難性等の諸々の問題をかかえている。

そこで,この論文においては,設計段階のVEを効果的に進め,また製品の価値を確実に保証できるようにするため,機能テーブルを中心とした設計段階のVE手法と,その進め方について,過去1年間研究してきたことを紹介する。この進め方を開発するに当って,最も留意した事は,実際の場において,だれでもが簡単に,迅速に,確実に展開できるようにすることであった。なお,この論文中の実例は,当社の録音機事業部で取りあげた例である。(録音機事業部はテープレコーダ一等の録音再生機器を製造している部門である。)

企業経営の健全な運営は,経営計画の綿密な立案と,その実行にあるといえる。企業としては,当然,これ等の原則に従って,健全経営のための運営を必掛けているが,時として,計画に反した予測せざる誤算により,収益確保が困難となり,赤字経営,果ては倒産の事態が発生している。この原因には,計画時点での,万全の予測に基く計画の立案も,予測せざる環境の激変によるものもあるが,実際には,人為的に回避し得る原因もかなり多い。その一つに,技術面での不良,事故がある。

近時,信頼性の思想の普及により,信頼度管理技術が発達し,不良,事故の未然の防止が徹底して来ているが,ややもすると,事故発生を恐れるのあまり,過剰に防衛して,コスト面での破たんを来たすことがある。従って,技術面,コスト面の両面の同時管理が,製品体質の改善には不可欠であり,また,事故の発生を防止することは,工程上のトラブル防止,従って,日程管理の円滑な運営を,附随的に可能ならしめることにもなる。

一方,VA活動は,「機能を損うことなく,最低のコストで達成する」活動であり,コスト,品質の両面を管理して,真の価値改善を計ることである。従って,VAのステップには,改善案のテストや,必要機能(品質,特性も含むと考える。)を保証するステップがある。しかしながら,変更案に対する保証のための,消極的な品質保証体制を,一歩進めて,積極的に,不良,事故の防止を主体とした体制にすることが,「VA,すなわち事故」といった,誤まったイメージの改善に役立たせることができるし,真のトータルシステムとしての価値改善に密着出来るものと考える。

また,VAの対象範囲は,かつての材料費,加工費を対象とした時代から,原価構成比率の変化により,間接費の削減による,経営システムの改善等に指向して来ている。従って,製品原価の周辺コストに対する分析,改善のメスを加えた場合,時として,不良コストが爼上に上ることもある。このような場合,不良コストの削減,歩留りの向上によるトータルコストの削減が,製品価値の改善に結びつくことになり,従って,不良コストそのものを対象としたVA活動も必要であり,VAの基本ステップを,不良,事故防止の場合に適用し得る形に変形したステップの設定は,極めて有意義なことと考え,ここに,適用事例をあげて,ステップの体形を示して,ご批判を仰ぐ次第である。

VEが企業内に導入され,計画的に実施された結果,大幅な原価低減を効率的に実現し,収益性の向上に貢献しているが,責任者が不明確な管埋されていないVE活動では,効果に限度があると思われる。故に,マネジメントの一環として,VEによる目標原価の達成を,システマチックに,しかも全社的に実施し,目標を管理しなければならないので,コスト・マネジメントを効果的に実施するためプロダクト・マネジャーは,VE活動の計画・実施・効果の確認を総括的に管理することになった。

従来,企業の努力目標が,高生産性による生産コストの低減に向けられていたが,近来の市場の需給バランスから,商品の滞貨を招くようになった現在では,新たな企業の目標として,新しい機能を開発し,市場の再開発を計ることが,急務であります。

また一方,近来の労務費,材料費の高騰,商品の多様化からくる生産コストの吸収を,今までのように,生産性向上,合埋化による生産費の低減等の量的メリットに求めることは,次第に困難となってきました。

当社においても,VE活動の中で,今までのように既成の機能におけるVEにおいて,毎年くりかえされるこれら生産費の上昇に,すでに今までの機能のやきなおし(MODEL CHANGE)では,吸収出来ないことを痛感しております。

ここに,VEの目標を,現状おかれている企業の生み出し得る付加価値の低下に対し,これをいかにして維持するか,また一方,新たな機能を開発し,付加価値上昇を如何にして計るかの改善活動は,VErの一層重大な責務として,とりくまなければならない問題であります。

このような新しい環境を基に,VEを展開するためには,今までのような一定のパターン(企画機能or設計機能)を基に,その中で,いかにコストを引き下げるか,いいかえれば,与えられた機能に対し,いかにコストの低い手段を選択し,価値を向上させるかという"コスト・ダウン"の目的から,今後は,これら価値の追求とともに,新たな機能を開発する活動が必要であります。

そのためには,VEのあり方も,今までのVEの領域を,より上位に展開し,企業の経営段階にさかのぼり,製品の企画段階において,VEを適用する,いわゆる開発VEが必要になります。

大福機工株式会社においては,VAとかQCといったグループ活動がなされています。これは,われわれグループメンバー7名が,"品質係の価値向上"と題して,昭和45年10月から昭和46年3月迄の期間で,事務の仕事を,VA手法によって改善するべく活動して来た事例です。

内容は,決して感心するようなものではないのですけれども,こういった踏台の上に,VAの今後の発展を期待して応募したものです。

VEは,価値に関する問題解決の手法であり,その特徴は機能本位のアプローチである。それは,いかなる問題にたいしても,機能定義・機能評価・代替案作成の基本ステップを,組織的に展開する活動である。

VEを製品の価値改善に適用する場合には,製品に要求される機能を,正確に定義することが必要である。2ND-LOOK VEの機能定義には,製品構成部品の機能定義と機能整理の2つの段階がある。この段階は,物本位の考え方から機能本位の考え方への思考変革の過程であり,真に要求される機能を明らかにし,思考範囲を拡大させて,価値改善を達成することが目的である。

機能定義は,機能的研究の基礎であり,VE活動の成果と効率に大きな影響を与える重要なステップである。この論文では,機能定義用語の実態調査にもとづいて,機能定義の現状について検討する。

GE社に端を発する購買を中心としたVEは,製品や部品(Product or Parts :これを第1のPとする…P1)に適用され,著るしい効果をあげつつ今日に至っている。わが国においても同様,そのめざましい発展は,昭和46年7月現在で,約3,500人のバリュー・エンジニアを育成するに至った。しかし,VEのもつ独特な機能展開の方法が,単に製品や部品,つまり"物"にのみ限定されるとは考えられない。当然,適用の範囲を拡大すべく,その応用研究は,電子回路,建築,あるいは装置へと発展した。しかし,それは単に対象が復雑になっただけで,やはり"物"の域を脱しないものである。"物"をとりまく工場の仕組みは"物の流れ","情報の流れ"を必要とする。従ってP1を中心に120度方向を変えた応用は,工程(Process:これを第2のPとする……P2)への適用である。さらに,120度方向を変えた応用は,手続き(Procedure:これを第3のPとする……P3)への適用である。

年々激しさを増す商戦の中において,わが社のステレオ開発部門も"より良いものをより安く"ユーザーに提供することをモットーに,日々開発を行なっておる訳であるが,その目標を達成するのに有効な手段のーつとして,VEが導入されてから久しいものがある。当社においても,初めは外注部門のコストダウン手法として,VEを導入したのであるが,外注部門の性質上,既存部品のコストダウンということであり,製造工程の改良とか,材料取りの合理化,あるいは外注メーカーの経営合理化指導といったものが中心であり,設計の根本にまでさかのぼる 1st LookのVEは,まれであった。この外注部門での2nd Lookも,それなりに効果は認められるところであるのはもちろんであるが,やはり既存部品の部分改良という範囲に留まらざるを得ないため,一つの限界があった。しかし,ここ数年のメーカ一間のシェア争いは,激化の一途をたどる一方であり,より効果の大きい,より根本的なコスト低減の対策を,メーカーとして考えねばならぬということで,わが社においては,VEを設計段階に適用すべく,ここ数年全社的努力を重ねている次第である。

近年,社会経済の変動は,一段とその激しさを加え,国内外を問わず,荒波に直面している。建設産業においても,労働力の払底と労賃の高騰,生産性の遅れに加えて,金融事情の悪化などにより,企業収益の減退が余儀なくされている現状である。一見,はなばなしく感じられる建設産業も,他の装置産業(自動車,電気等見込み生産を行なっている産業)に比べると,企業の近代化は,非常な遅れを見せ,技術の改革は遅々として進んでいなかった。

体質改警にあたり,科学的な管理技法の導入も,いくつか試みてはいるものの,業態の特殊性にさえぎられ,他産業に見られる程,定着しているものは少ない。企業の経営効率を高める1つの手段としてVEが登場し,建設業に,その適用面を見出したのも,数年前にすぎない。

建設企業が過去の因習を打ち破り,企業改革に乗り出したのは,まだ新らしい事実であり,その息吹きは大きくなりつつある。生産面に技術革新を展開することと,経営面において体質改善を行なうことは,必須の急務であり,業界あげて必死の努力を続けている。

ここに産業能率短期大学のご指導を受け,建設業の問題として導入以来,諸方面にわたってコストダウンの効果が大きいことを知り,米国キングスコット社のA・J・デリソーラ氏の実践活動を結び合わせ,われわれなりに,適応性を求めて手法を展開している。

今回は,これらの実績をもとに,建設業での適用と今後のあり方について述べたいと思う。

VEは,日本に紹介されて以来,多くの研究と絶え間ない実践活動の結果,大きく成長し,発展を続けてきました。ところが,VE自体の理論及び実践面での進展に相反し,創始者マイルズ氏の主張された「業者の知識を有効に活用し,その努力に報いる」という,いわゆる報奨制度に関しては,充分な研究がなされてきたとは,いえないのではないだろうかと考えるのであります。

当社では,VA(量産段階の価値分析)からVE(設計・試作段階の価値分析)への重点移行方針に基づき,VEの組織的な推進を図って参りましたが,その進展拡大に伴ない,旧来のVA重点であった時代の報奨制度では,VEの進展を阻害するとの判断から,昭和45年秋に,改訂を実施いたしました。

こうした状況からVE報奨制度は,会社方針などから独立して考えるべきものではないと思いますが,この小論では,仕入先からのVE提案に対する報奨制度に的を絞って,当社の適用事例から,VE報奨制度の今後のあり方について考察してみたいと思います。

現下の厳しい経済体制下において,外注企業は親企業の指導育成に過渡に依存しているだけでは,変化の激しい経済・社会状勢にフォローして行けない。外注企業においても,経営管理に関する手法,例えば,VE,IE,QC,その他ORなど,マスターすることに努力し,利益を自ら計らねばならず,また他面,発注企業としても経営上不充分な点があれば,外注企業を指導して行く必要があると考える。

発注企業は,現在取引中の外注企業群に対し,その近代化,その他購入資材費を極力低減させる必要性から,VE手法によるコスト・ダウンを重視していることは明白なことであり,外注企業の窓口としての購買部門に,独創力,コスト・ガイド,その他,経営管理手法を身につけたVE専任者を置いて,外注企業の指導育成に当っているのが,一般的に見られる現象である。

以下に,製造工程改善のためのVEを中心として,創造性開発訓練としてKJ法を折込み,前記VE専任者が行なったVE教育指導の一端を述べる。VE推進活動を行なううえでの一助となれば幸いである。

シャープ株式会社テレビ事業本部に,本格的にVEが導入されたのは,昭和39年で,購買部門に調査室を設け,購入部品を対象としたセカンド・ルックのVEが開始された。

これは,コストテーブルによる購入価格基準の管理と,その過程におけるVE提案を活動の中心としたもので,購買管理のレベルアップに大いに貢献した。

しかしながら,必然的に,購買部門のためのコストテーブルという傾向があり,また,組織的な制約からファースト・ルックのVEに脱皮しきれず,企業のコストダウンの要請に適合できなかった。

そこで,昭和42年に,新製品の原価見積りを担当していた原価計算部門と統合されて,原価管理部門として独立し,設計段階のVEへ,さらに企画段階へのVEへと発展してきた。

しかし,企業を取巻く環境は誠に厳しく,帰納的な部品単位のVEや,機種単位のVEだけでは,十分とはいえなくなってきた。

そこで現在は,原価管理部門と経理部門を密着させ,演繹的なVEによる管理会計システムを確立し,利益計画に直結したVE活動を展開している。

これによって,目まぐるしく変動する市場動向に即応し,企業の要請する利潤を確保するためのコスト・マネジメントが可能となったので,その概要について述べてみたい。